名医が答える病気と体の悩み

認知症患者が1人で家にいるときに不安を感じさせない方法は?

写真はイメージ
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 認知症が進行すると、不安の症状が強く現れるケースがあります。よく、認知症の患者さんを在宅介護されている家族から、「外出していると、大した用事もないのに何度も電話をかけてくる」と聞きます。患者さんはなぜ今1人で家にいるのか分からず不安を感じ、電話をかけてしまうのです。

 在宅で介護をしている場合、買い物や用事で患者さんを家で1人にさせる時間は避けられないでしょう。短期記憶の障害で、直前のことを思い出せない患者さんは「出かけてくるね」と伝えてもその内容を忘れてしまいます。留守にする際は、どこに行っているか分かるように具体的な場所と、明確な帰宅時間を紙に書いて貼るといいでしょう。ダイニングテーブルなど、目に付きやすいところに貼ってください。

 また、外出する際は一言、患者さんに声掛けをすると思います。ですが、離れた場所から大きな声で話しかけても、認知症の患者さんは、感覚を受け取れる範囲が狭いので、耳に言葉が入っていないケースが多いです。目線の高さを合わせ、目をしっかり見ながら話すと伝わりやすいといえます。

 留守番してもらっているときに“お手伝い”をお願いするのも有効です。ただし、火を使うものは火事の危険もあるので避けてください。家族が帰宅するまでただ時間が過ぎるのを待っているだけでは不安は募るばかりです。本人の負担にならない範囲で、郵便物やチラシの仕分けをお願いすると、それに没頭して気を紛らわせられ不安を感じにくくなります。また、リビングの椅子に座って行うようなお手伝いであれば、家族が出かけるときに貼ったメモも目に入りやすく、「今は一時的に出かけている」と理解できます。さらに、家族からお願いされると、患者さんは自分は必要とされているんだと自尊心を高められ、幸福感を感じやすくなります。

 患者さんだけでなく家族側の心配を取り除くためにも、「見守りカメラ」の設置も効果的です。認知症になっても身体機能は衰えません。患者さんが家族を捜すために家を出てしまうと、家族の負担は増えてしまいます。最近の見守りカメラは会話機能が搭載されているものが多いです。カメラで定期的に患者さんの様子を確認し、不安を感じてパニックになっていた時でもカメラを通して直接呼びかけを行えるので、徘徊(はいかい)を防げます。

 長時間家を留守にする用事があり心配な際には、1カ月5000円から利用できる警備会社の「高齢者見守りサービス」を利用するのもお勧めです。

▽安成英輔(やすなり・えいすけ) 白金高輪駅前内科・糖尿病クリニック院長。岩手医科大学医学部卒業。順天堂大学医学部付属順天堂医院(内科・代謝内分泌内科)勤務などを経て、現職。日本糖尿病学会専門医、難病指定医、日本内科学会認定内科医など。

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