見た目の若さにこだわる人も、「声」には無頓着なのでは? 声も、体の他のパーツと同様に、老化する。京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科の平野滋教授に話を聞いた。
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「声帯は、楽器としての粘膜の弦のようなもの。声帯粘膜には土台となる声帯筋があり、その上に声帯靱帯、さらにその上に軟らかい薄い粘膜(粘膜固有層浅層=SLP)があります」(平野教授=以下同)
SLPにはヒアルロン酸が広く分布しており、これが声帯の高速振動に不可欠となっている。しかしSLPのヒアルロン酸は、年を取るにつれて減少。代わりに声帯粘膜内にコラーゲン線維が蓄積されていく。
「それによって声帯粘膜組織が硬くなり、萎縮。声帯振動が減弱し、発声時に閉じる声門が十分に閉まらなくなります。声帯筋も萎縮する。これらが50歳以降から顕著になり、加齢に伴う音声障害、いわば第二の声変わりを迎えるのです」
男性では高いハスキーボイスになる。女性では声帯粘膜と声帯筋の萎縮に加え、閉経後に粘膜がむくみ、低いガラガラ声になる。
「たかが声、ではありません。音声障害は声帯の老化を示し、やがて嚥下筋の筋力低下、嚥下力の低下、咽喉頭の知覚低下が生じてくる。つまり、嚥下障害や嚥下性肺炎のリスクが高くなるのです。声の老化を抑制することは嚥下障害や嚥下性肺炎の予防につながる可能性が高いのです」
対策として、次の方法が有効だ。
■胃酸逆流の予防・治療
逆流性食道炎は胃酸が食道まで逆流して起こる病気だが、胃酸の逆流がのどまで及んだ状態を逆流性咽頭炎という。
「逆流性咽頭炎が声帯に与えるダメージは深刻で、声帯の腫れ、むくみを引き起こします」
のどの方が食道より胃酸の影響を受けやすい。そのため逆流性食道炎の症状、すなわち胸焼け、酸っぱいものが上がってくる、食後に胸やみぞおちの辺りが痛む、といった症状はなくても、逆流性咽頭炎が起こっているケースがある。
症状としてかすれ声が7割、咳や痰が5割との報告もあるので、それらの症状がある場合、耳鼻咽喉科で検査を受ける。治療は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与となる。
「予防としては、胃酸を増やす食品を控えめにすること。具体的には、ビネガー、赤ワイン、トマトソース、炭酸、カフェイン、チョコレート、ミント、ガーリックなどです」
■のどの保湿
「のどが乾燥すると、声帯がすぐに痛みます」
腎臓病など基礎疾患がある人は別にして、水分を積極的に取る。平野教授があるテレビ番組の実験で40代女性タレントに1日1.5リットルの水を10日間飲んでもらったところ、声の質が変化したことが数値で表れた。
「ただし、お茶やコーヒーはカフェインがあるので多量に飲むことはお勧めできません」
■適切な発声トレーニング
「声は使わないと衰えます。ただ、発声は人それぞれで、声帯に負担をかけない発声法の身に付け方として、ストロー発声法が世界的に行われています。内喉頭筋の訓練となります」
ストローを口にくわえ、普段のしゃべり声くらいの高さで軽く「うー」と声を出す。地声、裏声でやり、音階でも発声してみる。
■抗酸化サプリを飲む
声帯粘膜内の活性酸素の顕著な増加は声帯を老化させる。平野教授が、健常な成人を対象に1時間、大声で音読してもらい、発声前、発声直後、発声後30分の音声機能を調べた。
抗酸化サプリを飲んだ場合とそうでない場合を比較すると、飲んだ場合は発声機能に変化がなかった。飲んでいない場合は発声直後は機能が低下した。
「対象者10人がほぼ全員同じ結果でした」
抗酸化をうたったサプリメントは複数販売されているので、自分に合ったものを選ぶといい。