高齢者の正しいクスリとの付き合い方

降圧剤「ARB」がACE阻害薬と併用されない理由 副作用が増強

写真はイメージ
写真はイメージ

 前回は降圧薬のひとつである「アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬」についてお話ししました。今回は、その親戚のような薬剤「アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)」について取り上げます。

 ACE阻害薬と同様に、ARBもレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)をターゲットにしているのですが、少し効き方が違います。やはり前回、アンジオテンシンⅡが強い血管収縮作用を持っているため血圧を上げるとお伝えしました。このアンジオテンシンⅡが血管を収縮させるときには、血管にあるアンジオテンシン受容体というところにひっつく必要があります。ARBはこの受容体に先回りしてひっつくことで、アンジオテンシンⅡが受容体にひっつけなくして血管が収縮するのを防ぐ、つまり血圧の上昇を防ぐ効果を示します。ACE阻害薬がアンジオテンシンⅡをできなくするクスリであるのに対し、ARBはできてしまったアンジオテンシンⅡが効果を発揮できなくするクスリということです。

 ARBの降圧効果はACE阻害薬よりも強い傾向があるので、どちらかというとARBのほうが広く用いられています。なお、ARBの成分名には「○○サルタン」とつくので、降圧薬をジェネリックでもらっている方は、一度ご自身のクスリを確認してみてください。

 ACE阻害薬と同様に、ARBにも血圧を下げるだけでなく心臓や腎臓を保護する作用もあるので、とてもメリットがあるクスリです。また、ARBはACEには作用しないので、ACE阻害薬の特徴的な副作用である空咳(痰が絡まない咳)が起こらないというメリットもあります。

 一方で、血液中のカリウムが増えるという副作用は両者に共通しています。カリウムが増えすぎると心臓に悪影響が出る可能性もあるため、ACE阻害薬と同様にARBを服用している方も定期的に血液検査をしておいたほうがいいでしょう。

 そうなると、ACE阻害薬でアンジオテンシンⅡが作られないようにして、それでもできてしまったアンジオテンシンⅡの影響をARBで止められれば一番いいのではないかと考える方もいらっしゃると思います。ただ、ACE阻害薬とARBは添付文書上では「併用注意」となっています。なぜなら、降圧効果が強まるだけでなく、両者が共通して持っているカリウムが増えすぎるという副作用が増強される可能性があるからです。そのため、一般的にはどちらか一方だけを使うというケースが多いクスリとなります。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

関連記事