高齢者の正しいクスリとの付き合い方

多くの種類がある降圧剤はどう選択され、どう使われるのか

クスリは医師の指示通りに服用することが重要
クスリは医師の指示通りに服用することが重要

 ここまで5回にわたり降圧薬について紹介してきました。他にもまだ降圧薬はありますが、主なものはほぼ取り上げましたので、今回は、実際にこうした降圧薬はどのようにして選択されて使われるのかについてお話しします。

 まず大前提として、高血圧の治療の基本は「減塩」と「適度な運動」です。食事に関しては、高齢になると味覚が低下するため濃い味付けになる、つまり塩分摂取量が増える傾向があります。かといってただ薄味にすると食事が進まなくなってしまいますので、おだしやスパイス、酸味などをうまく利用して塩分を少なくするように心がけましょう。

 減塩と適度な運動を行っても血圧が高い場合、「降圧薬」が必要になります。降圧薬は単剤から開始するケースがほとんどです。脳出血などで可及的速やかに血圧を下げる必要があるときには最初から複数の降圧剤を使うこともありますが、基本はカルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬のどれかひとつから開始します。

 もしそれでも血圧が十分に下がらなかった場合、その薬の量を増やす(1回1錠から2錠にするなど)のではなく、基本的には他の作用メカニズムの薬を組み合わせます。たとえば、カルシウム拮抗薬から開始して、もう少し血圧を下げたい場合にはARBと組み合わせるといった感じです。場合によっては3種類、4種類を組み合わせて用いられるケースもあります。こうした薬物療法を行っている場合でも、同時に減塩や適度な運動は必要です。

 一方、前回紹介したα1遮断薬やβ1遮断薬は、高血圧治療の第1選択には入っていません。これらのクスリ(特にα1遮断薬)は、他の降圧薬をしっかり使っているにもかかわらず血圧コントロールが十分にできていない場合に使用されるケースが多いです。

 降圧薬を使用していると、血圧が下がることによるめまい、ふらつきが起こることがあります。特にα1遮断薬を使用している場合に起こりやすいです。これらはクスリの効果が出ているという“証し”ともいえますが、転倒のリスクにもなるので気をつけましょう。とりわけ高所での作業中にそういった症状が現れると、転落につながる場合もあるので、できれば避けていただきたいところです。

 降圧薬は中止するとリバウンドが起こることもあります。血圧の乱高下は体にとって大きな負担になります。ですので、絶対に自己判断で中止せず、医師の指示通りに服用してください。また、服用し忘れることがあまりに多いと、医師は「まだ血圧が高い」と考えて新たに降圧薬を追加します。このような形でクスリの種類が増えていってしまう人が結構いらっしゃいます。やはり、医師の指示通りにクスリを服用することが重要だということですね。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

関連記事