ゲノム医療は、遺伝情報を詳しく分析することで病気の診断や最適な治療法を見つける医療のことで、先月、超党派議員による議員立法でゲノム医療法が成立しました。さらに、自民党の国会議員や製薬企業などによる「ゲノム医療推進研究会」は、その推進のための提言を加藤勝信厚労相に提出。会長の塩崎恭久元厚労相は、「日本は(世界に)まったく追いついていない。どんどん差が開いて、見えなくなる可能性がある」とPRしています。
ゲノム医療法の骨子は、世界最高水準のゲノム医療を実施する。国と地方公共団体はゲノム医療施策を策定し実施する義務がある。医師や医療機関、研究者や研究機関はゲノム医療施策に協力するよう努める。国は、個人のゲノム情報を保護し不当な差別が行われないようにする--。努力目標ですが、個人情報としてのゲノム情報を保護しながら、ゲノム医療を進めることが狙いです。
たとえばがん治療では、がん遺伝子パネル検査の保険適用は、標準治療がないか終了した固形がんに限られるため、利用者数は年間2万人ほど。それで治療につながるのは1割ですが、がんが完治することはまずありません。その半面、費用は膨大ですから、慎重な運用が大切です。
東大医科研の李怡然助教らは全ゲノム解析の研究について20~60代のがん患者やその家族など1万人あまりを対象に意識調査を実施。「病気の治療が可能になるので有益だ」と答えた人は、「どちらかといえばそう思う」も合わせてがん患者で79%、家族で73%でしたが、「遺伝情報が適切に保護されるか疑わしい」は、がん患者で61%、家族で63%です。東大医科研の武藤香織教授らの調査では、3.3%が遺伝情報による差別的な扱いを受けたことがあるとの回答もありました。こうした調査からは不安や問題点が浮き彫りとなっています。やっぱり慎重さが大切です。医療財政とのバランスをとりながら、費用対効果も考える必要があると思います。
がん治療で費用対効果というと、ゲノム医療の進展よりがん検診の受診率向上にともなう早期発見に努めることが、現状はベターでしょう。ステージ0の肺がんの医療費は10割で約150万円、ステージ0の乳がんは約110万円です。それがステージ4では、それぞれ約650万円、約390万円にハネ上がるのです。どのがんでも、進行するほど医療費は高くなりますから、生存率と医療費の両面で早期発見が一番です。
胃、大腸、肺、乳房、子宮頚部の5大がんの検査費用は、最も高い胃カメラで1万4000円ほどですが、自治体のがん検診なら自己負担ゼロも珍しくありません。一方、パネル検査は56万円で、多くは進行がんが対象です。費用対効果の差は歴然でしょう。