「手の多汗症」有病率は20人に1人…塗り薬が日本初登場

有病率は高いが治療していない患者が多い
有病率は高いが治療していない患者が多い

 手のひらに大量の汗をかく原発性手掌多汗症。日本皮膚科学会のHPによると、原発性手掌多汗症の有病率は人口の約5.3%と極めて高く、医療機関へかかる割合は1割以下と、治療していない患者が多い。6月1日に日本初の塗り薬が登場した。これを機に、悩んでいる人は治療を検討してはどうか。

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 薬の名前は「アポハイドローション」。保険適用の塗り薬になる。汗の悩みを専門に診る「山本英博クリニック」(東京・渋谷)の山本英博院長が言う。

「多汗症の塗り薬のひとつに、汗管の細胞に作用して管を塞ぎ汗を減少させる塩化アルミニウムがあります。しかし、効果をあまり感じられないという患者さんが多いのが実情。脇汗では別の選択肢として塗り薬が複数種類あるのですが、手の汗の患者さんにはなかった。そういう意味では、今回の新薬は朗報といえるかもしれません」

 アポハイドローションが汗を止める仕組みは、脇汗用の薬と同じ。アセチルコリンの働きを遮断する。

 アセチルコリンは、汗の分泌に関係する神経伝達物質。交感神経から指令を受けて、アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合することで汗を分泌する。

「この働きを、医学的に抗コリン作用といいます。イメージしやすいように説明するなら、体内にある汗をつくる工場を稼働させる鍵穴がアセチルコリン。その鍵穴を塞ぐ仕事をするのがアポハイドローションです」

■寝る前にローションを塗るだけ

 使用するタイミングは就寝前。手のひらにローションを適量出し(目安は5プッシュ)、左右の手のひらに均等に塗り広げる。塗った直後は寝具などにつかないようにし、そのまま就寝。

「注意点としては、薬を塗った手で目を触らない、そして起床後すぐに手を流水で洗う。抗コリン作用は眼圧を上昇させる可能性があるため、薬が目に入ると、眼圧が上がったり、瞳孔が開いてしまったりと目の調節障害を起こす可能性があるからです。誤って薬が目に入ったら、すぐに水で洗い流してください」

 医師によっては、塗布後に絹や綿などの通気性が良い手袋をして就寝することを勧める人もいる。なお、緑内障がある人は眼圧の問題でアポハイドローションを使用できない。

 そのほか、不整脈、妊娠中・授乳中、12歳未満なども、薬を使えない。処方希望の場合は医師に自分の状態を正確に伝えるよう気をつけたい。

 自分の手汗は多汗かどうか迷う方は、次の項目をチェック。

①最初に手の多汗症状が出たのは25歳以下

②左右の手のひらに汗をかく

③睡眠中は発汗が止まっている

④1週間に1回以上、手の多汗症状が見られる

⑤家族に同じ症状の人がいる

⑥手汗のために日常生活に支障を来している

 2つ以上当てはまれば、原発性手掌多汗症と診断される。

 記者も毎年夏になると汗に悩まされている。特に気になるのは首の汗だ。

 以前、近所の皮膚科で「首に塗りたいので、脇汗用の塗り薬(エクロックゲル)を処方してほしい」と伝えたところ「首に塗るなら処方できない」と、塩化アルミニウムを勧められた。アポハイドローションも、首にはNG?

「ダメです。アポハイドローションもエクロックゲルも抗コリン作用で、目に入れば眼圧を上昇させてしまう。塩化アルミニウムなら、たとえ目に入ったとしても、その瞬間に痛みはあるが眼圧には影響しません。『脇に塗りたい』と偽ってエクロックゲルを処方してもらい、それを自己判断で首や額など目に近い場所に塗るのは、決してしないようにお願いしたいです」

 薬は必ず注意事項を守って使うべき。自己判断は禁物だ。

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