若い糖尿病患者は「逆行性射精障害」に注意…男性不妊の原因に

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前回、糖尿病の人のプライベートゾーンに現れる合併症をいくつか紹介した。しかし、紹介できなかったものもあり、そのひとつが「逆行性射精障害」だ。男性不妊の原因ともなるこの現象は、糖尿病の人に多く見られるという。なぜなのか? プライベートケアクリニック東京新宿院の尾上泰彦名誉院長に話を聞いた。

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「逆行性射精障害とは射精時に精液が体外ではなく体内(膀胱内)に戻ってしまう現象です。ただし、射精時のオルガズムそのものは正常な射精と変わりません」

 快楽を得られるのに精液が出ない。これは江戸時代の学者・貝原益軒が著した健康本「養生訓」の交接(セックス)の極意「接して漏らさず」ではないか。「自分も達人の域に達した」と思ってニタニタしている好事家もいるかもしれない。

 東洋医学を学んだ貝原は「健康で長生きする」ためには精力を体内に温存して腎機能を保つことが大切だと説き、腎機能を守るための男女の理想的な交接回数を年齢別に書いている。それによると、20代では4日に1度、30代では8日に1度、40代では16日に1度、50代では20日に1度、60代以降は行わないか、体力があれば月に1度にするとよいとした。これは中国の古代の書物「千金万」を参考にしただけで、むろん特別科学的な意味があるわけではないが、今でも精液はなるべく出さない方がいいと考えている男性もいるだろう。

「セックスの回数が多すぎると体に毒というのは、性行動が旺盛だとそのことばかりに熱中しすぎて日常生活がおざなりになったり、ホルモンのバランスが崩れる恐れがあるのを防ぐために言っているのであって、『何回以上精液を出すと体に悪い』というエビデンスがあるわけではありません。逆に中高年でも適度な頻度で精液を出すことは、筋肉や骨格づくりや決断力を促すなどの働きがある男性ホルモンのテストステロンの増加につながりますし、ストレス解消にもなります。高い射精頻度は前立腺がんの低下と関係するという報告もあります。そもそも逆行性射精障害は精液を体外に出さないとはいえ、射精はしているわけで、それは通常の射精と同じ。体力の温存につながるわけではありません」

■交感神経の切り替えがうまくいかずに起こる

 逆行性射精障害の原因は、逆流を防ぐために塞がるはずの膀胱の一部が開きっぱなしになるからで、脊椎損傷や前立腺や大腸など骨盤内の手術で神経が障害されたり、前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療に用いられる薬の副作用などとして現れる。

「精液と尿は同じ尿道を通っています。それを目的に応じて体外に排出するには、自律神経である交感神経と副交感神経が関係しています。性的刺激により勃起するときは、リラックス時に優位となる副交感神経が優勢でなければなりません。やがて性的興奮が高まって射精するときは、一気に緊張時に優位となる交感神経が優勢になります。この副交感神経と交感神経の切り替えにより、前立腺と膀胱のつなぎ目である膀胱頚部が閉じて、精液が膀胱に逆流せずに体外に射精されるのです」

 一方、尿を出すときは副交感神経が優位になり、膀胱頚部や前立腺部尿道が緩む必要がある。

「おしっこの途中で人の気配に気づいて緊張するとおしっこが出にくくなることがありますが、それは交感神経が優位になって膀胱頚部などが閉じるためです」

 糖尿病の人は、神経障害によってこの交感神経の切り替えがうまくいかずに逆行性射精障害を起こすケースが多いという。

「2~7日の禁欲後に行う精液検査における射精量の正常値は1.5ミリリットル以上です。それより少なければ逆行性射精障害の可能性があります。わざわざ病院で調べるのは恥ずかしい、自分で知りたいという人は、自慰行為後の排尿を紙コップなどで採取して観察してみることです。白く濁ってドロッとしていたりすれば、精液が尿道口から出ずに膀胱に逆流しているのかもしれません」

 実際、糖尿病の男性の尿検査では精液が検出されることが少なくないという。

「子供はもう必要ない男性」にとっては逆行性射精障害は体に害はなく治療する必要はない。だが、「妊活中の男性」は治療の対象となる。

「不妊治療は膀胱頚部を閉鎖する働きのある交感神経刺激薬や三環系抗うつ薬などの薬物治療か、膀胱内の精子を回収して人工授精を行う方法などがあります」

 あなたは大丈夫?

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