がんと向き合い生きていく

検査入院の夜、突然、天井のスピーカーからコール音が響いた

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 先日、B病院に検査入院した時のお話です。がんの検査ではなく、心臓、冠動脈造影の検査をするためです。半年前にも受けた検査で経験していることもあり、検査そのものは安心していました。ただ以前、冠動脈に入れたステントが、その後どうなっているか心配でした。

 入院予約の時に、入院2週間前からの体温を記録する用紙を渡されました。入院3日前には、PCR検査で唾液を採るため病院を訪れました。入院当日は、午前10時ごろまでということで、妻にスーツケースを運んでもらって、9時過ぎには病院に着きました。

 入院案内の窓口で入院同意書を渡し、手続きを済ませたあと、書類とネームバンドを渡され、決められた病棟に向かいます。エレベーターを降りて、すぐに設置されてあるインターホンで、ナースステーションに到着を告げました。

 そこから先は、感染予防のため妻は入れません。看護師さんがネームバンドを手首に着けてくれ、自分でスーツケースを引いて病室に入ります。そして着替えて待つように言われました。

 スリッパは不可で、紐のない室内用の履物を用意してきました。パジャマに着替え、ロッカーに上着やズボンなどをしまいました。床頭台にはテレビが付いていて、鍵のかかる引き出しがあります。

 しばらくして、看護長さんが挨拶に来られ、その後、担当の看護師さんが来ました。体調を聞かれ、血圧、脈、体温を測定し、採血をしていかれました。それから、入院時の心電図と胸部X線写真を撮るため、それぞれの検査室に向かいます。心電図検査は外来患者と一緒だったため結構長く待たされ、「ガウンを着てくればよかった」と思いました。それでも、午前中には終わりました。 昼食は、麦ごはん、魚、おひたし、吸い物、そしてお茶です。

■担当医がなかなか来ない

 午後は、担当医が来るのを待ちます。きっと、先ほどの採血検査などの結果を見てから、明日の検査の説明に来るのだと思っていました。しかし、担当医は忙しく働かれているのでしょうか、なかなか来ません。ベッドに横になってひたすら待ちます。看護師さんは両鼠径部の毛を剃りにきました。手首からの検査予定でも、いざとなった時に鼠径部の血管を使って処置をするかもしれないことからの準備です。

 しばらくすると、担当医が病室にやって来て、明日の検査の予定について簡単な説明がありました。さらに、左手首の動脈が触れるのを確認し、マジックでそこに印をつけました。

 夕方4時半ごろになって夜勤の看護師さんが挨拶に来られました。聞くと、明日の朝8時まで勤務するとのこと。大変だなあと思いました。夕方遅くなって3人の医師が来て、こう言われました。

「明日の検査は一番に行います。朝8時半からです。造影だけで終わる予定ですが、血管を広げることなどが必要なら、行います。特別なことがなければ、そのまま終わります。結果は直後に、また、他の方の検査が終わってから午後に説明にあがります」

 私は「最初ですか。よかったです。まだかまだかと待っているより、よかったです。よろしくお願いいたします」と答えました。

 夕食が終わり、「がんの患者の検査入院でも不安になるのは同じかな」と思いながら、9時に眠剤をもらって飲みました。うとうとしていたら、突然、天井から「△コール、××階、○科病棟」と大きな音で放送がありました。

 私は、「きっと、○科病棟で何かあったのだ」と思いました。患者がトイレで倒れたとか、何か急なトラブルが起こり、他の病棟から手助けの職員を呼ぶコールだと直感しました。夜間で人が少なく、他病棟からの応援を呼ぶコールです。ただ、その後はまったく音がしません。何があったかは分からないままでしたが、「むしろ安全システムがしっかりしているんだな」と思いながら、眠りに就きました。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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