Dr.中川 がんサバイバーの知恵

中咽頭がんは口腔セックスの相手が多い男性ほどリスクが高い

中咽頭がんのリスク因子に変化が…
中咽頭がんのリスク因子に変化が…

 上中下に分かれる咽頭の中で口の奥の部分は中咽頭と呼ばれ、そこにできるがんが中咽頭がんです。いま、この中咽頭がんが注目されていて、先月27日が世界頭頚部がんの日だったこともあり、頭頚部がんのひとつとして中咽頭がんの報道が相次いでいます。

 これまで中咽頭がんのリスク因子は過度な喫煙と飲酒でしたが、最近はほかの因子が急増。それがヒトパピローマウイルス(HPV)感染です。患者を年齢別に見ると顕著で、60代以上は喫煙・飲酒由来が多いのに対して、50代以下はHPV由来が多くなっています。

 なぜか。HPVの感染ルートは性交渉ですが、その差をひもとくカギは口腔セックスです。

 岐阜大学の研究グループが女性122人について口腔セックスについてアンケートしたところ、「必ず行う」「50%以上の割合で」を合わせた割合は77%。これを年代別で見ると、30歳以上は57%でしたが、20代は81%で、20歳未満は90%と若い人ほど口腔セックスの定着が見て取れます。

 HPVは女性器に感染すると、子宮頚がんや膣がん、外陰がんに、男性器に感染すると陰茎がんに。男女共通のがんが肛門がん、そして中咽頭がんです。

 中咽頭がんの場合、発がん性HPVの感染リスクは女性より男性の方が高く、口腔セックスの相手が多い男性ほど高リスクになります。喫煙率の低下で、喫煙由来の中咽頭がんは今後、減少し、HPV由来が主流になるのは間違いありませんが、そのHPV由来も喫煙者は感染リスクが上昇することが分かっていますから、要注意です。

 ただし、HPV由来の中咽頭がんは、喫煙由来に比べて治癒率が高いことが知られています。放射線と抗がん剤を同時に行う化学放射線治療で根治できるため、正常な組織を温存できるので、生活の質を損なうことがありません。

 中咽頭がんを手術で摘出すると、食べ物をのみ込む力が弱くなったり、正しく発音できなくなったり。喉頭まで摘出すると、声帯も切除するため発声ができなくなるのです。

 化学放射線治療の最中は、口内炎や口の乾燥、皮膚炎などがあり、後遺症としてしばらく残ることもありましたが、最近はそのリスクを抑えるため、放射線の線量や照射範囲を絞る方法が開発され、従来の方法と同等の治療成績が報告されているので、今後は副作用や後遺症が減ってくると思います。それだけに、HPV由来の中咽頭がんが増えれば、化学放射線治療の有用性が増してくるでしょう。女性の子宮頚がんは、世界的に放射線治療が主流ですから、それと同じ構図です。

 HPV感染は、男性も人ごとではないことがお分かりいただけたでしょう。このHPVについてはすでにワクチンが開発されていて、欧米では女性はもちろん、男性の接種も進んでいます。

 千葉県いすみ市や東京都中野区など一部自治体では、小6~高1の男子生徒を対象に自治体独自の対策として約5万円の接種費用の全額助成をスタート。日本でも男性向けサポートが進むことを願うばかりです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事