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【ESBL産生菌】ペニシリンなどの抗菌薬が効かない耐性菌が日本でも増加中

写真はイメージ
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「耐性菌」というと、どのような菌を想像しますか? 有名どころでは「MRSA」でしょうか。最近は「PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)」や「BLNAR(β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌)」なども話題となっています。

「ESBL産生菌」もこれらと同じく多くの薬剤に耐性がある細菌で、院内感染の重要な原因細菌のひとつとなります。1980年代にヨーロッパで最初に発見されました。

 ESBLとは、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrumβ-lactamase)のことです。β-ラクタマーゼとは、最もよく使われる抗菌薬であるペニシリン系、セフェム系などの抗菌薬、いわゆるβ-ラクタム薬を分解して抗菌活性を無効にする酵素です。このβ-ラクタマーゼにはそれぞれ分解できる抗菌薬の種類があり、ESBL産生菌はこれらのβ-ラクタム系抗菌薬を広く分解する酵素を産生する細菌です。ペニシリン系、セフェム系(第1、2、3、4世代)およびモノバクタム系抗菌薬を分解します。

 ESBLを産生する細菌は大腸菌やクレブシエラなどのグラム陰性桿菌です。尿や便、創部などの病変や、水道シンクなどの水回りの環境に生息します。そのため、MRSAのように接触で簡単にうつるということはありませんが、何らかの原因、たとえば尿道カテーテルの不適切な取り扱いなどで院内感染として広がるケースもあります。

 また、ESBLを産生する細菌は、先に触れた大腸菌やクレブシエラなど以外にも、セラチア、エンテロバクター、その他の腸内細菌系の菌種の中にも見いだされることがあります。これらESBL産生菌は腸管内に保菌され、院内感染における集団発生の原因菌となります。近年、日本においてもESBL産生菌の分離が増加傾向にあるといわれています。

 感染防止策は、手洗いおよび防護用具の使用などの標準予防策、接触感染予防策の徹底と尿道カテーテルなどの取り扱いや器具の消毒を適切に行うことが大切です。

 ESBL産生菌は大多数のセフェム系薬に耐性となります。セフェムで治療しても改善傾向が認められない場合は、ESBL産生菌を疑う必要があります。

 治療は、軽症の場合ではセファマイシン系薬などを考慮してもよいのですが、多くの場合はカルバペネム系薬を使用します。また、ESBL産生菌の多くにニューキノロン耐性が報告されており、ニューキノロン薬の使用も感受性を確認し、慎重に行うことが望まれます。尿路感染に対し安易にニューキノロン薬が使用されていることも耐性の原因なのかもしれません。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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