糖尿病の治療で「インスリン」を使用している高齢者もいらっしゃるのではないでしょうか。以前、糖尿病とクスリについて紹介しましたが、今回はインスリンの治療ではなく保存方法についてお話しします。
薬局でインスリンを受け取る際、薬袋に「冷所で保存してください」と記載されているはずです。ここでいう「冷所」とは、多くの場合「凍結をさけて2~8度」の場所=「冷蔵庫」を意味しています。実際、薬局などでは冷所保存のクスリは4~5度に設定された冷蔵庫に入れて保存しており、毎日冷蔵庫内の温度を厳密に管理しています。インスリンも冷所保存のクスリになります。
事実、インスリンは糖尿病の治療に用いるクスリではありますが、本来は膵臓(すいぞう)から分泌されている血糖値を一定に保つ働きを持つホルモンで、ホルモンはタンパク質でできています。この「タンパク質でできている」というところがインスリンを冷所保存しなければならない理由です。
タンパク質はさまざまな要因で変性、つまり性質が変わってしまいます。この要因には熱も含まれます。たとえば、生卵の白身は透明ですが、目玉焼きにしたりゆで卵にしたときの白身は文字通り白くなります。これは調理の過程で卵に熱が加わったことで、タンパク質(ここでは白身)が変性した結果、起こる現象です。
タコのぬめりを取るための下処理として塩もみをしますが、これも塩でぬめり成分であるムチンというタンパク質を変性させることでぬめりを取りやすくしているのです。インスリンもタンパク質なので、熱が加わると変性してその効果が失われてしまいます。それを防ぐために冷所保存が必要なのです。
では、インスリンはいつも冷蔵庫で保存しなければならないかというと、それも違います。基本的には新品の状態(パッケージから出していない状態)で保存するときには冷蔵庫に入れましょう。一方で、一度使い始めたインスリンは冷蔵庫ではなく室温で保存しても問題ありません。1カ月程度であれば、インスリンを室温で保存しても問題ないことがわかっているためです。それでも、極端な環境(車の中や直射日光が当たる窓際など)で保管すると変性してしまう可能性もあるため、あくまで一般的な環境という意味での室温と覚えておくとよいでしょう。
これはあくまでインスリンの話です。冷所保存のクスリはたくさんあり、その理由はそれぞれです。中には、常に冷所保存を必要とするクスリもありますので、薬剤師の説明をしっかり聞いて、指示された通りの環境・方法で保存するようにしましょう。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方