Dr.中川 がんサバイバーの知恵

だいたひかるの義父も…「アブスコパル効果」で膀胱がん転移巣が消える可能性

膀胱がんは再発しやすいため、治療後の定期検査が重要(C)PIXTA
膀胱がんは再発しやすいため、治療後の定期検査が重要(C)PIXTA

 タレントのだいたひかるさん(48)の夫で、グラフィックデザイナーの小泉貴之さん(46)が自らのブログで父の膀胱がんについて興味深いことを語っています。数年前に見つかった膀胱がんは、手術の直前で肺への転移が判明。抗がん剤に変更して治療したものの、うまくいかなかったそうです。

 ところが、複数のセカンドオピニオンの中から勧められた治療を受けた結果、「あんなにたくさんあった影がほとんど消えて、当時は電話越しでも息苦しそうだったのですが、畑作業ができるほど回復しました」と記しています。それが免疫チェックポイント阻害剤と放射線の併用です。

 膀胱がんが転移した場合の治療は、化学療法が基本。その中心だったのがGC療法とM-VAC療法です。いずれも複数の抗がん剤を組み合わせた治療で、副作用の少なさからGC療法がよく行われていました。

 しかし、いずれの組み合わせで薬が効いても、2年生存率は20%ほど。すぐにどちらも薬が効かなくなりますが、長く次の治療法がありませんでした。

 その状況を変えたのが免疫チェックポイント阻害剤で、膀胱がんで最初に使われたのがキイトルーダで、2番目がバベンチオです。がん細胞は特殊なタンパク質を出し、免疫細胞の攻撃を免れる仕組みがありますが、免疫チェックポイント阻害剤はその“防御網”を解除して、がん細胞への攻撃を届きやすくしています。

 バベンチオは腫瘍が縮小したり、進行が止まったりしているうちに使用し、治験での生存期間は約21カ月。抗がん剤や放射線など積極的な治療をせず緩和ケアなどにとどめるグループの14カ月より優れているものの、心もとない現状でした。

 そんな中、注目を集めているのが、免疫チェックポイント阻害剤と放射線の組み合わせです。先ほどがん細胞の免疫ブロックの仕組みについて触れましたが、放射線照射でもそのブロックを破って、免疫がしっかりと機能する可能性があることが分かっていて、原発巣への放射線照射後に転移巣の病巣も縮小することがあるのです。

 原発巣に加えて転移巣も叩く効果はアブスコパル効果と呼ばれ、世界的に研究が進められています。アブスコパル効果はがんの種類にもよりますが、いろいろながんで期待できる治療法です。だいたさんの義父が受けた治療でも、その効果が見られた可能性もあります。

 従来の化学療法では期待できないほどの劇的な成果がまれに得られるのは事実ですが、そこに着目するよりはまず再発チェックの検査をきちんと受けること。これがどんながんにも共通しますが、特に膀胱がんは再発しやすく、治療後の定期検査はとても重要です。きちんと検査していれば、死亡に直結しないケースが多いのも事実。医学の進歩も大切ですが、膀胱がんについてはまず定期検査でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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