いま知っておきたい「爪水虫」最新情報(上)新検査キットが日本に初登場

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 爪の水虫(爪白癬)の検査に、新しい方法が加わった。今後、治療はどう変わるのか? 埼玉医科大学皮膚科の常深祐一郎教授に聞いた。

 新しい検査とは、検体に抽出液を加えて抗原を抽出し、抗体で検出して陰性か陽性かを診断する迅速検査「イムノクロマト法」。コロナ禍で鼻の粘膜を綿棒でこするタイプの検査をやったことがある人もいるだろうが、それがイムノクロマト法。市販の妊娠検査薬(尿をかけてしばらく置くとラインが現れるもの)も、イムノクロマト法だ。

「イムノクロマト法は、迅速に結果がわかり、簡便で、感度が高い。爪白癬に対するイムノクロマト法の検査キットは、今回のものが日本で初めてとなります」

 爪白癬は見た目だけで確定診断を行うのが非常に困難な疾患だ。

「類似した爪疾患は多数あり、皮膚科医でも視診のみでの診断では30%程度は誤った判断をするという報告があります。爪白癬は決して視診のみで判断するべきではない」

 これまで爪白癬で行われていた検査はまず、真菌培養法。感度が低く、結果が出るまで週単位で時間がかかる。次に、KOH直接鏡検法。感度は高いが、顕微鏡などの器材が必要。

「経験と技術も求められる。白癬菌がいるところから検体を採取せねばならず、これが難しい。顕微鏡の手技にコツが必要で、顕微鏡初見で白癬菌かどうかを見極める能力も不可欠。顕微鏡はあっても、KOH直接鏡検法を行わない医師もいる」

 爪白癬の診断を厳格にしなくてはならないのには、理由がある。

「足の指や足裏などにできる水虫(足白癬)は、市販の塗り薬がたくさんあり、それらでも治せます。しかし、爪白癬は医療用塗り薬があるものの、効果は高くはなく、効果が見えてくるまで何カ月もかかり、挫折する患者さんがかなりいる。塗り薬で治る人は十数%程度でしょう。確実に治すには医療用経口薬が不可欠。その処方のために爪白癬かどうかを正しく診断しなくてはならない」

■3種類の経口薬がある

 爪白癬を放置するとどうなるか……。塗り薬をきっちり塗っていれば足白癬は治るが、爪白癬はそのまま。白癬菌が爪足に存在する限り、何度でも足白癬の再発を繰り返す。家族へもうつしてしまう。

「そのうち、自分へもうつしてしまう。体が白癬菌に感染した状態を体部白癬というのですが、こういったケースは決して珍しくありません。自分の足から白癬菌を布団の上にばらまいて、その上に毎日寝ていれば、体の皮膚にうつるでしょうし、入浴後タオルで体を拭く際、先に足を拭いてから体に……ということもあるでしょう。そうやって足から体や顔に広がります」

 爪白癬で爪が分厚くなり切れなくなって、歩行に困難が生じる人も多い。高齢者では筋力低下からフレイル・サルコペニアを起こし、転倒リスクが増す。糖尿病がある人は、水虫のささいな傷から重篤な細菌感染症に至り、下肢切断となりかねない。爪白癬を「たかが水虫」と甘く見てはいけない。

 イムノクロマト法の登場で今後、爪白癬の診断は次の流れで行われる。KOH直接鏡検法が可能な施設では、最初にKOH直接鏡検法。陽性なら爪白癬の治療。爪白癬を疑うものの鏡検が陰性で、判断に迷う場合はイムノクロマト法で検査をし、陰性ならほかの疾患として精査を進める。

 顕微鏡がなかったり、鏡検できる医師がいないなどの理由でKOH直接鏡検法が不可能な施設では、最初からイムノクロマト法を行う。

 爪白癬の経口薬は3種類。2018年に発売された最も新しい経口薬は3カ月間の服用で、軽症の人なら2~3週間できれいな爪が出てくる。年単位で使用が必要な塗り薬と比べると、段違いで効果が高いといえる。

 爪白癬は、薬なしには治らない。せっかく簡便で感度が高い新検査が登場したのだ。爪の変色、濁り、形のいびつさ……など何らかの異変がある人は、皮膚科医を受診し、爪白癬の有無を調べよう。そして、もし爪白癬なら早速治療を始めようではないか。

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