感染症別 正しいクスリの使い方

【培養検査】病原体が特定されれば効果的な治療ができる

培養検査で病原体の抗菌薬に対する薬剤感受性を評価できる
培養検査で病原体の抗菌薬に対する薬剤感受性を評価できる

 感染症では、原因となる細菌や真菌などの病原体を特定するために、「培養検査」を行う場合があります。患者から採取した試料(血液、尿、喀痰など)を培養し、病原体の増殖や特性を調べるのです。

 培養検査では、病原体の抗菌薬に対する薬剤感受性を評価することができます。これにより、感染症の原因を正確に特定し、適切な治療法を選択できるのです。

 一般細菌では、薬剤感受性の結果が判明するまでに3日ほどの期間が必要です。では、感受性がわかるまでの期間はどのような治療を行うのでしょうか? 一般的には、「この感染症、この症状の場合では、このような細菌が原因となるケースが多い」と想定して、効果が見られるであろう抗菌薬の投与を開始します。こうした治療を「エンピリック(経験的)治療」といいます。薬剤感受性の結果がわかるまで患者さんを放っておくわけにはいきません。

 結果がわかるまではいろいろな細菌に効果を示す幅広いスペクトルの抗菌薬を使用することもあるのですが、培養結果で原因菌が特定された場合、原因菌以外にはあまり効果を示さない、より狭いスペクトルの抗菌薬に変更する場合があります。これを抗菌薬の「デ・エスカレーション」と呼んでいます。デ・エスカレーションは、「段階的な縮小」や「緩和」を意味します。これにより、効果的な治療を維持しながら、広域抗菌薬の使用に伴うリスクを減らすことができると考えられています。

 広域抗菌薬は、広範囲の細菌に対して効果を示すため、通常の細菌だけでなく感染症の原因となるより多くの種類の細菌にも影響を与える場合があります。その結果、耐性菌(抗菌薬に対して耐性を持つ細菌)が発生するリスクが高まるのです。

 広域抗菌薬は爆弾のように広範囲に対する破壊力を持ち、さまざまな目標を攻撃します。重篤な患者さんに対して、まずは幅広い範囲の広域抗菌薬を投与することで広範な病原体をカバーし、感染の進行を抑えることも重要です。しかし、何でもかんでも広域抗菌薬を使うのではなく、細菌の感受性試験によって特定の細菌の感受性が確認されたら、狭域抗菌薬を使用することで感染を駆除するために必要なターゲットに対してより効果的に治療が可能になる場合もあるのです。

 爆弾を使うのではなく、蚊には殺虫剤で十分なのです。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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