過労死を防ぐためには「動脈硬化」の検査を一度は受けたい…1カ月45時間超の残業で発症率アップ

過労死を防ぐためには「動脈硬化」の検査が効果的
過労死を防ぐためには「動脈硬化」の検査が効果的

 ここ数年、「働き方改革」についての議論が活発だ。2021年に労災認定の基準となる「健康障害に発展する恐れのある時間外労働時間」いわゆる「過労死ライン」が見直されたのも一因だ。労働時間に注意を払うのは大切だが、過労死を防ぐためには「動脈硬化」の検査がより効果的だという。循環器専門医で東邦大学名誉教授の東丸貴信氏に聞いた。

 時間外労働などの過重労働による疲労の蓄積は、脳血管や心臓血管の病気との関連性が高いとされ、1カ月に45時間を超える残業をするとこれらの疾患を発症しやすくなると認められている。

「長時間労働や重労働による心身への負荷がかかると、体に強いストレス反応が生じ、睡眠不足も相まって疲労の回復が不十分になります。睡眠時は副交感神経が優位になりますが、睡眠時間の短縮や質の低下で、交感神経活動が優勢になっている時間が長くなります。すると、副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミン、皮質からはストレスホルモンのコルチゾンが大量に分泌されます。それらの作用によって心拍数や血圧が上昇し、代謝も活発になり、心臓や血管に大きな負担がかかって脳や心臓の病気につながるのです」

 こうした心臓や脳の代表的な病気は虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、脳卒中(脳梗塞・脳出血)、心不全や不整脈で、とりわけ虚血性心疾患や脳卒中による過労死=突然死の大きな要因になるのが「動脈硬化」だ。

 心臓から送り出される血液を全身に行き渡らせる役割を担う動脈が硬くなる病態で、動脈硬化性プラーク(瘤)により血管の内側が狭くなって血液が流れにくくなったり、プラークが破綻して血栓がつくられることで、虚血性心疾患や脳卒中といった命に関わる深刻な病気の大きなリスク因子になる。つまり、動脈硬化がどの場所でどのくらい進行しているかをしっかり把握して対策を講じることが、過労死=突然死の予防につながるのだ。

■人間ドックではわからない

「動脈硬化は加齢に伴う血管の老化のほか、高血圧症、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病によって進行します。一般的な健康診断や人間ドックでは、これら個々の項目については判定できますが、それらがトータルで引き起こす動脈硬化の場所や程度ははっきり把握できません。ですから、動脈硬化性の心疾患や脳疾患のリスクが上昇する年齢に達した段階で、人間ドックのオプションや心臓ドック、脳ドックなど動脈硬化の程度を把握できる検査を一度は受けたほうがいい。男性なら50代、女性なら60代が目安ですが、生活習慣病を指摘されている人は男女ともそれより10年早めに受けることをおすすめします」

 動脈硬化の場所と程度を把握するためには、画像診断検査が必要になる。そのひとつが「頚動脈エコー検査」だ。

「首を通る頚動脈に超音波を当て、超音波が反射した波の画像から動脈硬化の程度を調べる検査です。頚動脈壁(内膜・中膜など)の構造や血流の状態がわかります。動脈硬化プラークの状態や血管の詰まり具合、血栓の有無も観察できます。頚動脈硬化の程度は脳動脈だけでなく全身の動脈硬化の指標になります」

 ほかに「全身のCT検査」も有効だという。

「これで、大動脈や末梢動脈、冠動脈の石灰化が分かります。胸部大動脈の石灰化が強かったり、冠動脈や頚動脈に石灰化があれば、虚血性心疾患や脳卒中のリスクが高いといえます。次の段階では、心臓超音波検査、心筋血流シンチグラフィーや運動負荷心電図検査といった冠動脈血流や心機能の評価を行う検査が行われます。また、直接的に冠動脈病変を調べるには、冠動脈造影CT検査が役立ちます。静脈から造影剤を注射投与し、心電図と同期させながらCT撮影を行う画像検査で、冠動脈の狭窄部位や狭窄度がかなり正確にわかります。ただ、造影剤を使用する検査なので、薬剤アレルギーがあったり、腎機能が低下している患者さんにはリスクがあります。脳内の血管は造影なしのMRAで安全に調べられます」

 検査を受けて、動脈硬化がどの場所でどのくらい進んでいるかを一度把握しておけば、その後の進行を遅らせたり、心筋梗塞や脳卒中の発症を食い止める対策が打てる。また、働き方改革で労働時間を調整する際も、過労死リスクがどれくらい高いのかを判断する目安にもなる。リスクが増える年齢に該当する人は、心臓や脳ドックで動脈硬化症と関連する心血管病の検査を受けたほうがいい。

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