Dr.中川 がんサバイバーの知恵

堀ちえみさんは実践 “一がん息災”…実は「無病」より長生きできる可能性も

堀ちえみさんは実践
堀ちえみさんは実践(C)日刊ゲンダイ

 がんをつらい病気と受け止める方は、少なくありません。私も膀胱がんを自分で見つけた直後はショックでしたが、今は“一がん息災”と前向きにとらえています。そんな“一がん息災”の典型が、タレントの堀ちえみさんでしょう。

 2019年にステージ4の舌がんで舌を6割切除し、再建手術と懸命なリハビリの末、今年2月にはステージに立てるほど滑らかな発声を取り戻しています。実は、舌を切除した年の4月には、ステージ0の食道がんも見つかり、切除しているのです。

 今月2日には、自らのブログに「本日は食道がんの経過観察のための、診察でした」と報告。「ステージ0でしたが、がんはがん。いつ何時また、顔を出すかは分かりませんので、早期発見のために定期的な検査は、避けて通れません」と記しています。この堀さんの心がけが、まさに“一がん息災”そのものなのです。

 ある人に複数の臓器のがんができることを多重がん(重複がん)といいます。最初の診断とほぼ同時期に診断される多重がんの頻度は2~17%。堀さんのケースは、まれではありません。

 舌がんを含む口腔がんや咽頭がんでは、食道にもがんができやすく、ガイドラインでもこれらのがんの人には、内視鏡で食道をチェックすることが推奨されています。堀さんが、定期的に内視鏡検査を受けているのはそのためでしょうし、それによって食道がんはステージ0の早期で発見できたのでしょう。

 実は、どこかにがんができて、次にできるがんは早期に発見される傾向があります。診断直後は3~6カ月くらいの間隔で経過観察が行われるためで、それをきちんと受けていれば、2つ目以降のがんは早期に発見されやすいのです。

 昔から病気にかかることなく健康に生活できることが無病息災で理想とされます。しかし、まったく病気がないと、定期的に検査を受けようとする動機づけがなく、かえって見つかったときには進行がんや重い病気であることが決して少なくありません。

“一がん息災”は、がんがあってもそれと折り合いながら生活し、検査を受けていれば、次のがんやほかの病気は早期に発見でき、生命に影響を与えることなく元気に生活できます。それによって長生きできるという考え方です。

 すい臓がんは早期発見が難しく、5年生存率が1割を下回ります。とても厄介ながんですが、東大病院の調査では、肝臓がんの治療後に見つかったすい臓がんは、6割がステージ1でした。肝臓がんの再発チェックでCT検査を定期的に行うため、早期のすい臓がんが偶然見つかるためだと考えられます。膀胱がんの私も、堀さんのように“一がん息災”で前向きでいたいと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事