前立腺肥大症の最新手術「WAVE治療」は負担が小さく合併症も少ない

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 前立腺肥大症の新しい手術法として、近年注目されているのが「経尿道的水蒸気(WAVE)治療」だ。日本では昨年9月に保険適用になっている。WAVE治療を導入している昭和大学江東豊洲病院泌尿器科診療科長の森田將氏に詳しく聞いた。

 前立腺肥大症は、加齢に伴う男性ホルモンの変化が原因で前立腺が大きくなり、尿道を圧迫して尿の勢いが悪くなったり、夜間頻尿、切迫性尿失禁といった排尿障害に悩まされる病気のこと。放置すると尿が出なくなる尿閉をはじめ、腎不全、膀胱結石などを引き起こすリスクがある。生活の質(QOL)を下げないためにも早期に治療を開始するのがベターだ。

「治療は薬物療法が基本で、前立腺肥大症と診断された患者さんのうち9割は尿道の緊張を取ったり、前立腺を小さくする内服薬で治療しています。ただし、薬で効果が十分に得られない人や、尿閉などの合併症が見られる場合には手術が検討されます」

 前立腺肥大症の手術は尿道から内視鏡を挿入し、前立腺を電気メスで削る「TURP(経尿道的前立腺切除術)」や、レーザーでくりぬく「HоLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)」がメジャーだ。ただ、どちらも全身麻酔や脊椎麻酔下で行う必要があり、手術時間や入院期間が長く体への負担が大きいデメリットがある。とりわけ高齢者の場合、持病のために全身麻酔の手術に耐えられない、認知機能の低下で術後せん妄のリスクが高いなど手術が難しいと判断されるケースも少なくないという。

 そこで注目されているのが冒頭で触れた「WAVE治療」だ。低侵襲で、従来法が適応されなかった人でも受けられる。

「WAVE治療は尿道から機器を挿入し、先端部分から放出される103度の水蒸気の対流熱で一定範囲の前立腺組織を均等に加熱して壊死させ、尿道を広げる方法です。静脈麻酔で行え、早ければ3分程度で終わるので希望があれば外来で行うこともできます」

 手術後はカテーテルを尿道に入れたまま帰宅し、1週間後の外来で抜去する。壊死した組織は1~3カ月かけて体内に自然吸収され、効果は自然吸収が進む約1カ月後以降に表れる。

「WAVE治療は即効性がないので、良くならないのではと不安がる患者さんが一定数います。しかし、約1カ月経つと急激に排尿障害の症状が改善したと驚かれる方が多い」

 前立腺肥大症は、国際前立腺症状スコア(IPSS)やQOLスコアの点数といった自覚症状の問診票を基に重症度を判断し、尿の勢いは最大尿流率(Qmax)の値から他覚的に評価される。手術前後の自他覚症状を比較したところ、症状はかなり改善されたという。

「WAVE治療を受けた48人の治療効果を集計したところ、平均値で治療前のIPSSは21.5点(重症)だったのに対し、術後3カ月では7.8点(軽症)、QOLスコアは4.8点(重症)から1.6点(軽症)に、最大尿流率は7.4(ミリリットル/秒)から11.4に改善していた。QOLスコアの改善からも、患者さんの満足度が高いことがうかがえます」

■性機能の温存もできる

 さらに従来法の場合、射精しても精子が体外ではなく膀胱内に逆流する「逆行性射精」などの性機能障害も注意すべき合併症に挙げられている。WAVE手術は、手術時の尿道粘膜のダメージが最小限であるため術後に逆行性射精が起こる可能性が極めて低く、従来の手術法と比較して性機能の温存にもメリットがあるとされている。

「WAVE治療によくみられる合併症は、一時的なものがほとんどです。術後に血尿や尿閉、尿路感染が見られるケースがまれにありますが、個人差はあるものの早期に改善することが多い。このような低侵襲な手術でありながら、海外のデータでは再手術率も術後5年で4.4%と報告されていて、従来手術と比較しても決して高くありません」

 現段階での適応は、薬物療法で効果がなく前立腺の体積が30~80ミリリットルで、全身状態が不良で手術合併症のリスクが高い症例、高齢や認知機能障害で術後せん妄のリスクが高い症例、術中出血のリスクが高い症例といった既存の手術が難しい人のみが対象といった制限が設けられている。

「若年層、持病やリスクのない患者さんへの適応は、WAVE治療の安全性や有効性、長期の治療成績が確認され、日本泌尿器科学会が定める適正使用指針の適用制限が外れてからになりますね」

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