慢性的な腰痛で悩んでいるなら…「痛み」の専門外来を受診する

有訴者率の高い症状トップは男女ともに「腰痛」
有訴者率の高い症状トップは男女ともに「腰痛」

 2022年の国民生活基礎調査では、有訴者率の高い症状トップが、男女ともに「腰痛」。そんな腰痛、慢性的な症状に悩む人の中には、「痛み」の専門外来を受診する人も出てきている。どんな検査・治療を行うのか? 中部国際医療センター痛みセンターの飯田宏樹医師(日本慢性疼痛学会理事長)に聞いた。

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 岐阜県にある同センターには、他県からも患者が訪れる。痛みに対して多くの視点からアプローチするため、医師のほか、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士、理学療法士、作業療法士といった多職種が連携し治療を行っている。

「腰痛は、最初は原因がはっきりしていても、時間が経つにつれて痛みの構造が変化し、神経が過敏になって痛みだけが残るケースがあります。ストレスのほか、多彩な原因が絡み合っているケースも。また、画像検査でヘルニアがあったとして、そのヘルニアで腰痛が生じているケースもあれば、ヘルニア自体では痛みはなく別の要因があるケースもあります。画像で見つかることが、すなわち痛みの原因ではありません」

 同センターでは、まず問診、血液検査、レントゲン、CT、MRIを行い(明らかに不要な場合は省く検査もある)、治療戦略を立てる。臨床心理士や精神科の意見を取り入れることもある。

「かつて腰痛の85%は神経症状や基礎疾患がなく、画像検査で痛みの原因を特定しきれない──という調査結果があったくらい、原因がわからない腰痛が多く含まれます。それでも検査をするのは、見逃すと命に関わる病気や感染症がないかを調べる意味もあります」

 あらゆる検査をしても原因が判明しない患者では、いったん原因追究は横に置き、痛みコントロールに注力する。

 腰痛をはじめとする痛みは、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に大別できる。外傷などで患部に損傷が起こり、侵害受容器が活性化。信号が脊髄を通って脳に送られ、引き起こされる痛みが侵害受容性疼痛だ。

 一方、神経障害性疼痛は、さまざまな原因で痛みを伝える神経が異常に興奮し起こる。

「侵害受容性疼痛では非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)が効きますが、神経障害性疼痛では効きが悪いです。神経障害性疼痛には、ガバペンチノイド、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬などの薬を使い、それで効き目が弱ければ弱オピオイド鎮痛薬、それでもダメなら症例によっては強オピオイド鎮痛薬を限定的に使います。侵害受容性疼痛か神経障害性疼痛のどちらの要素が強いのか、スクリーニングツールや薬物への反応でみていきます」

■神経ブロック治療は効果の持続時間も重要

 神経ブロック治療も有効な治療法だ。硬膜外ブロック、神経根ブロック、交感神経ブロック、椎間関節ブロック……と種類は多々あり、どれを選択するかで効果が違う。さらに、どれくらいの時間、効果が持続するのかもポイントだ。

「『効かない』という患者さんも、『1~2時間すら効かない』のか、『1~2時間は効いたのか』で戦略が異なります。『1~2時間すら効かない』人ではその神経が痛みの発生に関与していないと考え、別の治療を提案します。しかし『1~2時間は効いた』人では、その神経に原因があるが、治療が長期有効性を示していないということなので、神経機能を長期間抑制し痛みを軽減する高周波熱凝固やパルス高周波治療を検討します」

 薬物治療と同時に重要なのは運動療法だ。

「痛みに特化したリハビリテーションを指導します。患者さんの痛みの場所、程度、筋肉量、運動経験、年齢などで適した方法は異なります。リハビリというと『痛いのを我慢してやる』というイメージが強いかもしれませんが、痛い運動、痛みを我慢して行う運動は禁止。その人にとってやっていいことと、やってはいけないことを具体的に指導します」

 痛みは100%取れないかもしれない。しかし、短期的で実現可能な目標を立てて、痛みの緩和を目指す。特に睡眠は大事で、「(腰痛で熟睡できない場合に)夜眠れることを目指す」と目標を立て、実現できたことで、「ずいぶん楽になった」と感じる人は多いという。

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