がんと向き合い生きていく

前立腺がんだった知人が急に亡くなったという知らせが届いた

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 もう、10年はお会いしていないOさん(75歳・男性)ですが、「半年ほど前に某病院で前立腺がんと診断され、尿道カテーテルを入れて蓄尿の袋を持って通院している」と、ご家族から聞きました。ご自身ではいろいろ大変と思いますが、治療法はさまざまな選択肢があること、前立腺がんなら病期が進んでいても多くはホルモン療法が効くこと、長期に生存される方が多いことなどが頭に浮かびました。

 そのうちに会いたいと思っていたのですが、先週、呼吸困難が現れて再入院し、亡くなったと聞いてびっくりしました。尿が出なかったと聞いたので、腎不全を起こしたのでしょうか。詳細は分かりません。新型コロナのこともあり、家族葬で済ませたとのことでした。

 そういえば友人のHさん(72歳・男性)の場合は、採血検査でPSA値が少し高いことが判明し、MRI検査で前立腺がんが疑われ、直腸から前立腺に針を刺して組織を採取する病理検査でがんが確定しました。ただ悪性度は低く、症状もなく、他に転移巣もないことから、定期的にPSA値をチェックし、もし上昇した場合は再生検して根治治療を行うかどうかを検討する「PSA監視療法」を選択し、経過を見ている状態です。

 前立腺がんは早期に見つかれば、まったく大きくならないで一生そのままでいることもあります。ですから、がんが前立腺に限局し、低リスクと診断された場合はPSA監視療法を選択することもあるのです。外国のデータでは、がんが早期であった場合、手術しても放射線治療をしても、何もしない場合でも、10年生存率は変わらなかったという報告もあるのです。

 Tさん(68歳・男性)は、肺にたくさんの転移巣が見つかり、そこで初めて前立腺がんが原発巣であることが分かりました。ホルモン療法で急激にPSA値は低下し、すでに3年が経過しましたが、その後も元気で過ごされています。

 医療関係の仕事をされているSさん(65歳・男性)もPSA監視療法のようで、病院で検査を受けた後、時々メールでPSA値を知らせてくれます。

■低リスクでは経過観察の場合も

 前立腺がんと診断された場合、進行が速いのか、ゆっくりなのか、病理検査で悪性度診断が行われます。これを「グリソンスコア」と言い、10点満点で点数が高いほど悪性度が高くなります。がんの進み具合は、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの検査で診断します。進行状況とグリソンスコア、PSA値などにより、低、中、高リスクに分けられるのです。

 どのリスクに該当するのかに合わせて、患者さんの希望、年齢、合併症などを検討して治療法が決められます。前立腺全摘手術、放射線治療、ホルモン療法が治療の中心です。

 抗がん剤治療の効果は限定的で、根治治療には使われず、初回から選択されることは多くありません。ですから、低リスクでは無理して手術や放射線治療を行わず、経過を見る方法もあるのです。

 手術では根治のために前立腺全摘、周囲のリンパ節郭清を行います。低~中リスクで限局している前立腺がんでは根治の可能性が最も高いので、手術が一番の適応になります。

 放射線治療は身体的負担が少なく、外来でも可能です。副作用として、排尿痛、排便困難、尿道狭窄、性機能障害などがありますが、治療法の改善により少なくなってきています。

 前立腺がんは男性ホルモンに影響されるので、薬物療法では主として男性ホルモンをブロックします。化学的除睾術といわれる注射や内服などいろいろな薬が開発されています。ホルモン療法が効かなくなった場合にドセタキセルなどの抗がん剤が使用されています。

 Oさんの死があまりに早く、きっと悪性度がとても高いものだったのではないだろうか。そう思ったりもしています。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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