最新のがんマーカーは複数のがんを早期発見できる…名古屋大が発表

国内の一般的な病院で受けられる「がんマーカー」は約50種類あるが…
国内の一般的な病院で受けられる「がんマーカー」は約50種類あるが…

 がん診断がまた一歩、進化しそうだ。今年9月、血液検査で複数のがんを早期に発見できる可能性が高い「がんマーカー」を発見したと名古屋大学が発表した。これまで使われてきたがんマーカーに比べて精度が高く、無症状の人でもがんを発見できるという。研究メンバーの神田光郎医師に詳しく聞いた。

 ◇  ◇  ◇

「がん(腫瘍)マーカー」とは、体内にがんができると分泌されるがん特有の物質のことで、血流に乗って体内を巡っています。血液検査や尿検査でがんマーカーの値を測定し、がんの有無や場所に関する診断を補助したり、すでにがんと診断されている人であれば治療効果の判定や再発の確認を目的に使われています。

「今回、『SDF-4』と呼ばれるタンパク質が、複数のがん(胃がん、食道がん、大腸がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がん)を早期に検知できる可能性が高いと明らかになりました。研究では健康な80人と、胃がん患者400人の血液を採取し診断精度についての評価を行ったところ、がんの人を検出する確率(感度)は89%、がんでない人を陰性と診断できる確率(特異度)は99%で特定できました」

■無症状のステージ1でも数値が上昇

 国内の一般的な病院で受けられる、あるいは保険適用になっているがんマーカーは約50種類にのぼる。ただ、消化器がんや乳がんに対して用いられている従来法のCEAやCA19-9の場合、胃がんに対する感度はCEAで13%、CA19-9では17%と、満足な精度とは言えなかった。

「従来法の場合、胃がんステージ1の段階で数値が上昇する人は5%程度。ほとんどはステージ3や4など、自覚症状が現れる進行胃がんでないと数値が上がりません。また、血糖値の高い人やたばこを吸う人では数値が上がりやすく、値が高いからといってがんであるかどうかの判断が難しい問題も指摘されていました」

 今回発見されたSDF-4は、ステージ1胃がんの段階でも、ステージ3や4といった進行がんと同様に数値の上昇が確認されたという。胃がんはステージ1で治療を行えば完治する確率は90%以上だ。がんで死亡する人を減らすためにも早期発見がカギとなる。

 また神田医師は、欧米と比較して日本では胃の内視鏡検査の実施数が非常に多いことも指摘する。

「胃がんかどうか確認するには胃カメラを用いますが、検査を受ける人の苦痛や検査費用の高額さのほか、麻酔や器具の挿入による粘膜の損傷といった検査そのものによる危険をある程度伴います」

 胃がんの場合、確定診断には組織を採取(生検)し、病理検査でがんの有無を確認する。感度が高いSDF-4が一般の医療機関で導入されれば、採血結果をもとに内視鏡検査の必要性が高い人を見極める判断材料になることが期待される。

 現在、研究グループは研究成果を国内特許に出願し、他の医療機関でも測定できるSDF-4の検査キットの開発に向けて企業と共同研究を進めている。ただ完成して、一般診療で使用可能となるまでには“壁”がいくつかあるという。

「今回の研究では限られた数の患者さんで検査を行い高い精度を示せました。しかし、実用化するにはより多くの患者さんを対象に診断精度を確認し、証明する必要があります。また、医療費の高騰が進む日本では保険適用の審査が非常に厳しいのが現状です。一日でも早く患者さんの早期発見に役立てられるよう、今後もさらなる研究、開発に取り組んでいきます」

 がんが治癒可能な段階で発見される人が増えるためにも、早期の実用化を期待したい。

関連記事