だからあなたの頭痛は治らない

夜、眠るときに必ず夢を見るのは「脳が完全に休めていない」ことの表れ

睡眠時間が8時間あっても…
睡眠時間が8時間あっても…

 50代半ばという年齢ではめったにない異常な興奮状態の脳波の持ち主。今回も引き続きその女性記者さんの話をしたいと思います。

 若い世代ならいざしらず、50代ともなると脳波が激しい興奮状態を示すことはそうはありません。

 では、なぜ彼女の脳はそんなふうになっているのか。診察室で問診をしているうちに、この記者さんは夜眠るときに「必ず夢を見る」と話すことが引っかかりました。

 記者さんは「でも8時間以上は寝ているから、睡眠不足では決してない」と言い張りますが、夢を見ているということは脳が休養できていないということ。睡眠時間が8時間であっても、きちんと脳が休めているのはそのうちの何時間であることか……。

 この興奮状態の脳波は、睡眠の質が関係しているのではないか。そう考えた私は、睡眠中に脳もしっかりと休めるように2種類の薬を処方しました。バルプロ酸ナトリウム錠とクロナゼパム錠、それぞれ眠る前に飲んでもらうことにしました。どちらも脳の興奮状態を抑制し、片頭痛を予防する効果のある薬です。

 来年の1月にまた弊クリニックで脳波検査を行う予定です。それで、おそらく脳波の興奮状態はある程度治まるはず。脳波が安定すると、記者さんが3~4年に一度必ず繰り返すという「3日間寝込んでなにもできない状態になる」ようなひどい片頭痛も起こりにくくなると思われます。

 記者さんからひとつ質問がありました。「眠るときに音楽を聴いているのですが、これはどうでしょう?」と。私は「脳には刺激になります。睡眠時間以外ならいいですが、睡眠時はやめておきましょう」とアドバイスをしました。片頭痛持ちの方は、眠る際は無音で眠ることを推奨します。

 さて、真夏に彼女が起こしたひどい片頭痛ですが、今回は39度近い熱が原因で、ひどい頭痛を引き起こしたのではないかと思います。脳というものは熱にとても弱い。高熱を出した人の脳波をチェックすると、通常の倍ぐらいの波形を示します。

 記者さんによれば、子供の頃から少し疲れると熱を出すタイプ。特に今年の酷暑で体内に熱がこもっている感覚が長くあったそうです。

 私が多くの頭痛患者さんを診療して感じることですが、頭痛持ちの人は熱中症になりやすい人が多い。脳や神経細胞は高熱に弱いのです。彼女もおそらく熱中症から高熱を出し、脳が刺激されひどい片頭痛につながったのではないでしょうか。

 なお、熱中症になった際に行ってほしいのは、体の外側ではなく内側を冷やすこと。とにかく冷たい氷水をたくさん飲む。

 胃には毛細血管がたくさんあるので、胃を冷やすことで血液が冷え、毛細血管を通して脳に運ばれる血液も冷えるのです。ちょうど車のラジエーターのような役割をしているのです。結果的に熱中症による脳の熱も冷やしてくれるので、症状が早めに改善します。

清水俊彦

清水俊彦

東京女子医大脳神経外科客員教授。「汐留シティセンターセントラルクリニック」の頭痛外来には全国から患者が訪れる。

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