高齢者の正しいクスリとの付き合い方

2つの作用がある「アスピリン」は服用する時に注意が必要

「アスピリン」には2つの作用がある
「アスピリン」には2つの作用がある

 高齢者の中には、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などに対して「アスピリン」を服用している方もいらっしゃるでしょう。でもみなさん、アスピリンと聞くと解熱鎮痛薬というイメージがありませんか? 今回はアスピリンの2つの作用について説明します。

 アスピリンはもともと解熱鎮痛薬として誕生しました。初めて合成されたのが1897年ですから、もう130年くらい前の話になります。そして、現在も解熱鎮痛を目的に病院で処方されますし、市販薬としても流通しています。では、なぜ狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などにアスピリンが用いられるのでしょう? アスピリンには血小板凝集を抑制して血をサラサラにする作用もあるからです。

 アスピリンにこの作用があることがわかったのは1964年で、成人が小児用量のアスピリンを服用することでその効果が発揮されることが明らかになりました。少量のアスピリンは血小板の凝集に必要な物質(トロンボキサンA2)の合成を抑制することで血をサラサラにします。

 狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などで病院から処方されるアスピリンの1錠あたりの含有量は81~100ミリグラムとなっています。それを1日1錠服用している方がほとんどで、多くても3錠(300ミリグラム)までとなっているはずです。アスピリンの解熱鎮痛作用を発揮させようとすると1回500~1500ミリグラムの服用が必要になるので、血をサラサラにさせようとしたときに服用する量がいかに少ないかがお分かりになると思います。

 こうした2つの作用があることで、注意すべき点が出てきました。それを「アスピリンジレンマ」といいます。血をサラサラにする量のアスピリン服用中の人が、解熱鎮痛薬として追加で多い量のアスピリンを服用したときに起こります。多い量のアスピリンを服用すると、たしかに解熱鎮痛作用を発揮しますが、同時に血小板の凝集を抑制する物質(プロスタグランジンI2)の合成も抑制してしまいます。つまり、血小板凝集に必要な物質と血小板の凝集を抑制する物質両方の合成が抑制されることで、血をサラサラにする効果が打ち消されてしまう可能性があるのです。

 これから寒くなって風邪をひく人もいるでしょう。もし、血をサラサラにすることを目的としてアスピリンを服用しているのであれば、市販薬を購入する際にはアスピリンを含有していないものを選んでください。そして、病院を受診する際は今服用しているクスリの内容を必ず伝え、影響のないクスリを選択してもらうようにしましょう。 ほとんどの方が一度は耳にしたことがあるアスピリンですが、このようにちょっと不思議な特徴があるのです。クスリって面白いと思いませんか?

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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