独白 愉快な“病人”たち

難病の表皮水疱症と闘う梅津真里奈さん「治療薬はないのでキズができるたびに…」

ラジオパーソナリティーの梅津真里奈さん
ラジオパーソナリティーの梅津真里奈さん(本人提供)
梅津真里奈さん(ラジオパーソナリティー/27歳)=表皮水疱症

「表皮水疱症」は、生まれつき表皮と真皮をつなぎとめるタンパク質が不足したり、欠損したりしているために、ほんのわずかな衝撃で皮膚がただれたり、水ぶくれができてしまう難病です。表面の皮膚だけではなく、口の中や食道などの粘膜も弱いので常にどこかから出血していて、尿検査では潜血反応が出ますし、血液検査をすると貧血が酷かったり、炎症反応が高かったりします。

 でも私はまだいい方で、生まれたときに表皮水疱症と診断がつかず、キズを繰り返すことで指が癒着し手が“グー”になってしまう人もいます。

 私は、生まれたときすでに指の皮がむけていたそうです。赤ちゃんにはたまにあることらしく、母は医師から「指しゃぶりしながら生まれてきたのでしょう」と言われたそうです。でも、1日たつ頃には全身にキズができてしまい、「とびひ(皮膚に細菌が入って水ぶくれなどが次々できる皮膚の感染症)かもしれない」と、NICU(新生児集中治療室)のある大きな病院に移されました。

 幸いだったのは、そこに奇跡的に表皮水疱症を知っている医師がいてくれたことです。ただ日本では症例が少なすぎて診断ができなかったので、米国に私のデータを送って、確定まで2カ月ぐらいかかったそうです。

 治療薬はまだなくて、キズができるたびに対処するしかありません。私はキズにメピレックス(浸出液を吸収し、創傷を整える絆創膏のようなもの)というガーゼを貼っています。キズの量にもよりますが、10センチ角ぐらいのやつを、背中や脚を中心に20枚以上ですね。

 一番しんどいのはお風呂です。メピレックスははがすときの刺激が弱いのが特徴なのですが、それでもやはりはがすと痛いですし、お風呂のお湯は大人でも涙が出るほどしみます。でも、全身にキズがあると感染症にもかかりやすいので、清潔を保つため必ず毎日お風呂に入らなければなりません。そしてまたメピレックスを貼って1日を過ごす……その繰り返しです。

 痛いのもつらいですが、かゆいのも切ないです。かいてはいけないけれど、治りかけてかさぶたになると、かいてしまってキズが広がる悪循環。痛み止めの薬を飲んだり、化膿してきたら抗生物質を処方していただくことぐらいしか方法がありません。かゆくて眠れなかったり、仕事に集中できないことが歯がゆいです。

 食事でも口の中がキズついてしまうので、お豆腐などの軟らかいものを中心に食べています。パン粉のついた揚げ物やフランスパンなどは、よほど注意しないとのみ込むときに血の味がします。千切りキャベツやコンビニの冷たいおにぎりでも痛みを感じてしまうのです。

 でも、キズを治すためにエネルギーを使うので、しっかり食べないと栄養失調になりやすいんです。私は食べるのが好きなので硬いナッツもリスのように前歯でめちゃめちゃ細かくして食べますし、サクサクのコロッケはソースでベチャベチャにして食べます(笑)。

 洋服のタグを取るのは基本中の基本。靴で足首一周水ぶくれになったり、ペットボトルを開けるだけで手の皮がむけてしまう肌質です。

 中学生のときは、キズだらけの見た目からいじめに遭いました。「触ったらうつる」と言われ、通学できなかった時期もあります。もちろんうつる病気ではありません。

■病気を知ってもらわないと次の世代が大変

 役者に憧れて東京の専門学校に行ったこともあります。でも感染症を合併してしまって、下痢と嘔吐と42度近い高熱が出て生死に関わる状態になってしまったんです。親元を離れてひとり暮らしはできないと悟ったとき、東京でプロになる夢は消え、「なんで私だけ……」と悲観的になりました。

 でも、「表皮水疱症の患者会」に入って「この病気を知ってもらおう」と活動することで、少しずつ前向きになりました。皮膚疾患は軽視されがちな病気ですけど、全身に生キズが絶えないこの病気は合併症を起こしやすくて、じつは命に関わる病気です。

 私は、患者会の活動がストップしたコロナ禍で、キズをあえて見せる写真をネットで発信しました。啓蒙活動を止めてしまうことに危機感を覚えたからです。もしかしたらバッシングを受けるかも……と覚悟しました。でも、意外と優しい人ばかりでした。それからです、表皮水疱症とともに生きてきた私の経験をブログに書き始めたのは……。

 病気を知ってもらわないと、次の世代の子たちが大変です。この病気が注目を浴びるようになれば、研究や治療薬の開発がもう少し進むかもしれない。そこに協力してくれる企業が現れるかもしれない。そんな期待を込めて、これからも活動を続けていきます。

 自分ではできないことが多いので、どうしたって誰かに助けてもらわなければなりません。その分、私は人の優しさに触れることが多いんです。本当に人に恵まれた人生です。それは、表皮水疱症だから感じられたことかなと思います。なので、自分もできるだけ誰かに優しくなれたらなぁと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽梅津真里奈(うめつ・まりな)1995年、北海道生まれ。網走のコミュニティーラジオ局「FMあばしり」でパーソナリティーを務めるほか、司会事務所「ボイス・オブ・オホーツク スカイ」に所属し、オホーツク地方を中心に、お祭りや婚礼・式典などの司会として活動。北見の劇団に所属し、舞台に立つこともある。自身のブログ「表皮水疱症と 難病と生きた過去。生きる未来」で表皮水疱症の実情を発信し、病気の啓蒙に尽力している。



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