老親のためにも知っておきたい「杖」の正しい選び方、使い方、歩き方

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 年末年始の休みに里帰りして、老親の肉体的な衰えを目の当たりにして驚いた人もいるのではないか。老親の足元がおぼつかず、「そろそろ杖を使ったら?」と言いたくなった人もいるだろう。自分自身で足の衰えを自覚して杖の使用を考えている人はもちろん、老親に杖を勧めたり、プレゼントしたりする人も、それ相応の杖の知識が必要だ。下北沢病院の理学療法士である武田直人氏に杖の正しい選び方、使い方、歩き方について教えてもらった。

■種類と正しい選び方

 杖にはさまざまな種類があるが、お年寄りが歩行のふらつきや痛みの軽減のために使う代表的なタイプに「T字杖」がある。T字杖は杖がなくても自力で歩ける人向けで、自立歩行が出来ない人や手に痛みがある人には向いていない。

 ほかに一般的なお年寄りが使う杖としては「多脚杖」がある。先端が3~4点に分かれて接地していて高い安定感のある脚杖で、立つ姿勢が不安定な人などに使われている。段差のない平らな場所での使用に適しているが、屋外や段差のある場所では転倒する恐れがある。

 また、杖には医師の指示でケガをした人などが使う「ロフストランドクラッチ(前腕固定型杖)」や「松葉杖」などもある。

 ロフトランドクラッチは前腕を通すカフ(輪っか)がついていて、その下にグリップがついている。グリップを握る手と前腕で体を支えるのでT字杖よりも杖に体重をかけやすく、歩行時の安定感がある。手に痛みがある人やグリップを握る力が弱い人でも使いやすいという。カフには2種類あり、U字型は前腕をはめやすい反面、安定性に欠ける。一方、O字型は安定性はあるが、転倒時にはずれにくい欠点がある。

 松葉杖は脇あてとグリップがあるので、体重をしっかり支えられて安定性がある。両脇で支えて下半身への負担を軽くする。下半身に麻痺があったり、痛みがある人、股関節症の人などが使う。

■長さ

 杖は身長に合っていなければ、歩行が不安定になり、転倒リスクが高くなる。無駄な力がかかるため肘などを痛めることもある。だからこそ、体に見合った長さを確保する必要がある。

「T字杖において、正しい杖の長さを求める方法は3つあります。①グリップの高さが大腿骨大転子(太腿の付け根の骨の出っ張ったところ)に来るようにする。②肘が30度程度に曲がった状態で楽にグリップをラクに握れる。③腕をまっすぐに降ろした状態でグリップが手首の位置にあるもの、などがあります。①が最も良い選び方ですが、大腿骨大転子という部位があまり一般的でないため、わかりやすい方法として②、③が使われているのが現状です」

■握り方

 T字杖の場合、グリップの短い方を前にして、人差し指と親指でグリップの前方を握り、残りの指で後方を握る。あるいはグリップを握り支柱に指を添える。これが正しい握り方だ。

「グリップの長い方を前にして握ったり、グリップでなく支柱だけを握ったり、グリップの前の部分だけあるいは後ろの部分だけ握るのは間違いです」

 なお、脚の痛みの軽減が目的で杖を持つ場合は、痛みのある側と反対側で杖を持つ。脚のふらつきのコントロールが目的の場合は力が入りやすい利き手で持つと良いという。

■使い方

「T字杖は、足の外側から15センチ横に杖を置き、無理なく届く位置に杖先をついて、姿勢良く歩くことが大切です。そうでないと、余計な部位に負担がかかり体を痛める場合があります。杖をついて歩くには2つの方法があります。ひとつは『3動作歩行』と呼ばれる歩き方です。最初に杖を前に出す。次に杖と反対側の足を前に出す。続いてもう一方の足を前に出すやり方です」

 もうひとつは「2動作歩行」と呼ばれるもので、杖と杖とは反対側の足を同時に前に出す。続いて杖を持つ足を前に出す方法だ。

「歩行のふらつきの是正だけが目的の場合はいきなり2動作歩行でも構いません。ただ、痛みがある場合は、まず3動作歩行で慣れてから2動作歩行に移行するのが良いでしょう」

 歩くときは不必要に身長が下がらないようにすること。膝や腰が伸びないまま歩くと体に負担がかかりその場所を痛めてしまう。

 T字杖は最大体重の6分の1程度を支える杖なので、杖に体重をかけすぎてはいけない。杖をついて歩くときは、脱水予防のため30分歩いたら休憩することが大切だという。

■階段などでの使い方

「上りは良い方の足で上り、後から杖と痛い方、弱い方の足がついていく形になります。一方、下りではその逆となります。杖と痛い方、弱い方の足が先に出て、良い方の足がついていく形となります。つまり、上るときも下りるときも1段進むごとに両足を揃えることになります」

 神社の砂利道など不安定な場所での杖の使用は転倒防止のため避けるべきだが、使わざるを得ない場合は、小股で歩行し杖を垂直に立てて十分体重が支えられるようにすることが大切。靴は転倒予防のため、踵を覆うものを履くのがいいという。

 年を取れば誰でも足腰が弱り、テンポよく歩くことができなくなる。その結果、自宅に引きこもり、気持ちが弱くなる人も少なくない。杖があればそれを解消できる。だからこそ、誰もが正しい杖の選び方、使い方、歩き方を学ぶことが必要だ。

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