下肢にしびれや痛み…脊柱管狭窄症の最新治療「FEL」は手術後3時間で歩ける

歩くのがつらいと感じているなら高齢者でも積極的な治療の検討を
歩くのがつらいと感じているなら高齢者でも積極的な治療の検討を(C)日刊ゲンダイ

 脊柱管狭窄症で歩くのがつらい──。そう感じているなら積極的な治療を検討すべき。高齢者の10人に1人が該当するといわれる脊柱管狭窄症は活動量低下につながり、やがてはフレイル(虚弱)や認知機能低下につながりかねない。90代でも可能なほど体への負担が少なく、保険適用の手術も登場している。

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「『FEL』という治療法なら、傷口は8~10ミリ。術後3時間で自力で歩け、2泊3日で退院できます」

 こう言うのは、脊椎疾患の患者を数多く診る岩井FESSクリニック院長の古閑比佐志医師(岩井整形外科副院長)。FEL(Full-Endoscopic Laminectomy ※1)は内視鏡手術の一つで、「脊柱管狭窄症の手術で最も体への負担が少ない手法」として注目を集めている。

 脊柱管狭窄症は、加齢で脊柱管内の関節や黄色靱帯が厚くなり、脊柱管が狭くなって神経が圧迫される病気だ。薬やブロック注射で良くなる人もいる一方で、5~6回ブロック注射をしても十分な効果が得られない人もいる。そんな時に検討されるのが、FELを含む手術だ。

「FELでは、皮膚に小さな穴を開け、そこから内視鏡や手術器具を挿入し、モニターで確認しながら、狭窄の原因になっている黄色靱帯などを取り除きます」(古閑院長=以下同)

 脊柱管狭窄症の内視鏡手術には、狭くなった脊柱管を広げる「MEL」という方法もある。これも低侵襲ではあるものの、傷の大きさは18~20ミリで、入院期間は4~6日。FELはそれらを下回る。

「FELの方がMELより内視鏡の外径が2分の1ほど小さい。筋肉や骨、関節などの正常組織を傷めずに手術を行え、背骨についている筋肉を剥がすことが最小なので、脊柱の安定性を損ないません。さらにFELの手術器具は水を出しつつ吸い込むという水の環流ができるようになっており、組織が酸素に触れず瘢痕化が生じにくい。術後の癒着も起こりにくい」

 2020年、FELと、従来の内視鏡下手術であるMELとの治療成績を比較した論文を古閑医師は発表している。痛みの程度や術後満足度は2つの治療法で有意差は認められなかったが、術後3カ月後の満足度はFELが7.5、MELが6.9だった(0から10までの11段階の評価で、10が最高の満足度)。

「脊柱管狭窄症は高齢者に多い。入院期間が短ければ短いほど、術後すぐに動ければ動けるほど、認知機能の低下やフレイルのリスクを下げられる。そういった観点からも、FELはメリットの大きい治療法だと考えています」

■手術を検討するタイミングは?

 ただし、FELは医師の技量が求められる治療のため、実施している医療機関がまだ少ない。また、FELが向かない脊柱管狭窄症もある。

「脊柱管狭窄症の中には、腰椎すべり症が起因しているものもあります。それによって腰椎の不安定性が高すぎると、FELで神経の圧迫部位(黄色靱帯など)を取り除くだけでは対応できず、金具で背骨を固定する固定術が必要となることもあります。しかし、固定術で生じるデメリットも複数あるので、なんとかFELで治療ができないか方法を探ります」

 脊柱管狭窄症がある場合、次の点を押さえておきたい。

【症状がなければ治療の必要なし】

「MRIで脊柱管の狭窄があっても、症状がないケースは珍しくありません。ひどい狭窄があるのに、しびれはそれほどでもない人、逆に狭窄は大したことがなくても、しびれや痛みがひどい人はザラにいます。画像検査で脊柱管狭窄症が判明しても、症状がなければ治療の必要はありません」

【間欠性跛行があるなら手術の検討を】

「手術のタイミングは、症状が生活の質を低下させているかどうか。間欠性跛行(※2)がある状況が続くなら、手術をお勧めします」

 人生100年時代。健康寿命の延伸のためにも、脊柱管狭窄症の悩みを抱えているならFELを行う医療機関で一度相談してみてはどうか。

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※1 FEL:FESS(Full-Endoscopic Spine Surgery=完全内視鏡下脊椎手術)の一つ。PEDと呼ばれていた手術と使う機器やアプローチの仕方はほぼ同じ。

※2 脊柱管狭窄症の症状:・太ももからふくらはぎ、すねにかけて、しびれや痛みがある。・歩いているうちに、しびれや痛みが強くなる。少し休むと、しびれや痛みが和らぎ歩けるようになる(間欠性跛行)。

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