病気と共に生きていく

娘を出産した直後から突然、体に力が入らなくなった

松本彩子さん(提供写真)
松本彩子さん(提供写真)
松本彩子さん(47歳)=慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)

 もし足元に空の紙袋が落ちていたら、皆さんはそれを蹴ることができますよね。でも、CIDPを患う私には蹴ることができない。足に力が少しも入らないんです。紙袋の存在に負けてしまい、足を前に出せず、前方に倒れてしまう。転んでしまうことは、非常によくあります。

 突然、体に力が入らなくなったのは、2014年の夏です。娘を出産後すぐ、立とうと思っても足の感覚がないんです。足裏にラップを巻かれているような、足の皮が引っ張られているような違和感もありました。水を飲もうとしても、口をうまく動かせないから水が口から漏れる。娘のオムツのマジックテープをうまくつけられない。

 日に日に麻痺している部分が広がり、完全に感覚がなくなりました。その間、1カ月に満たなかったのではないでしょうか。当時の記憶はあいまいで、正確な症状や経緯が思い出せません。

 病院につながるきっかけになったのは、最初は住んでいる区の助産師さんからの電話でした。母子ともに元気かと聞かれた際、私が受け答えをし始めると「失礼ですが、お母さま、いつもこのような話し方ですか?」と聞かれたのです。「1週間前からそうです」と答えると、「すぐに救急車を呼んでください」と。

 赤ちゃんがいるので「すぐ」とはいかず、両親に連絡をし、翌日、実家近くの総合病院を受診。「帯状疱疹」という、なんとなく納得のいかない診断を受け入院。1週間ほどで退院したのですが、退院時には、過去最悪の体調で、どこの筋肉にどうやって力を入れればいいのかわからない。病院入り口のわずか3段の階段すら下りられない状況でした。

 視界もおかしく、物や人が全て二重三重に見える。このままではまずいと眼科へ直行しました。その眼科の先生に「あなたが行くべき病院は眼科ではない」と脳神経内科の病院を紹介され、翌日、2駅先の脳神経内科へ。待合室はとても混んでいて、しかし“光の速さ”で名前を呼ばれ、簡単な身体テストが行われました。

 ペンを目で追う、片足で立つ、目を閉じて立つ……。これら全てがうまくできなかった。眼科、そして脳神経内科の先生の態度から、「普通ではないことが起こっている」とうっすら感じていました。

■慢性炎症性脱髄性多発神経炎 末梢神経に炎症が起こり、「手足の力が入りにくい」「感覚がわかりにくい」「しびれる」などを来す病気。はっきりとした原因はわかっていない。ステロイド療法、免疫グロブリン療法、血液浄化療法が行われるが、治療後も再発と寛解を繰り返したり、慢性に進行したりすることがある。

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