糖尿病の人は「帯状疱疹」を発症しやすい…50歳以上は要注意

帯状疱疹にはさまざまな合併症が…
帯状疱疹にはさまざまな合併症が…

 糖尿病の人がなりやすい皮膚病といえば水虫が有名だが、このところ患者数の増加が目立つ「帯状疱疹」もそのひとつだ。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)院長の辛浩基氏に聞いた。

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「帯状疱疹は、顔や体の片側の皮膚にピリピリ、チクチクした痛みが起きた数日後に激痛を伴う赤い発疹が現れ、水ぶくれと共に帯状に広がる皮膚病です。体の片側に現れるのが特徴で、顔、頭、胸、腹部、背中、腰、股間などに発症することが多い」

 子供の頃にかかった水ぼうそうの原因ウイルスによって発症し、水ぼうそうが治った後もウイルスが脊髄に残り、本人の免疫が落ちた時に神経に沿って神経症状が出現する。

「日本人の多くは幼少期に水ぼうそうに罹患しているため、日本の成人の9割以上がこのウイルスを保有しています。心身ともに健康であればこのウイルスが活性化することはありませんが、加齢や疲労、ストレスなどで免疫が低下すると、免疫で抑えられなくなり、潜んでいたウイルスが活性化して発症するのです。そのため免疫が低下しやすい50歳以降は帯状疱疹が出やすいといわれています」

 じつはこの帯状疱疹は、糖尿病の人がなりやすい病気のひとつとして知られている。糖尿病がヒトの免疫を大きく低下させるからだ。

 免疫とは、ウイルスや細菌などの病原体から体を防御したり、体内の老廃物や死んだ細胞や発生したがん細胞を処分し、傷ついた組織があればそれを修復する働きのことを指す。

 免疫は大きく「自然免疫」と「獲得免疫」とに分かれている。前者は人間にもともと備わっている仕組みで、免疫細胞が自分と非自分をいち早く認識して攻撃することで病原菌を排除する。

 具体的にはマクロファージや好中球といった細胞が細菌を食べることで処理する。後者は一度侵入した病原体の情報を記憶して、再び侵入された時に対応できるという特徴がある。

「糖尿病で高血糖が続くと、さまざまな免疫担当細胞の機能が低下することが報告されています。たとえば、自然免疫のひとつで、病原体が侵入した際の初期の防御反応の主役を務める好中球は、高血糖状態の患者では病原体を攻撃するための能力が低下し、病原体を食べる力が低下していることが報告されています。さらに、単球の貪食能も血中HbA1cと逆相関することが知られています。また、獲得免疫である細胞傷害性T細胞の細胞傷害性分子の発現も低下しているとの研究発表もあります」

■肺炎や肝炎を合併することも

 カナダの研究では、成人の糖尿病患者の帯状疱疹有病率が高く、男性よりも女性の方にその傾向が強いことが報告されている。日本でも、糖尿病患者の帯状疱疹の発生率と、他の基礎疾患がある患者の帯状疱疹の発生率を比較した研究において糖尿病の発生率が高いことが確認されている。

「ただでさえ厄介な帯状疱疹ですが、さまざまな合併症があることが知られています。代表的なものは帯状疱疹の皮膚症状が治まった後も、痛みが継続する帯状疱疹後神経痛(PHN)です。人によっては数カ月あるいは年単位で絶え間ない痛みにさらされることがあります。50歳以上の2割がPHNに移行するといわれ、年齢が高くなればなるほど移行率は高くなります」

 ほかにもウイルスによる角膜炎、結膜炎、ぶどう膜炎などの目の病気や、顔面神経麻痺、耳鳴り、めまい、難聴などに加え、無菌性髄膜炎、脳炎、脊髄炎などの中枢神経系の病気、運動麻痺、筋萎縮、膀胱・直腸障害など不随意運動神経の病気、さらには肺炎、肝炎などの病気さえ合併する可能性がある。

「水ぼうそうにかかったことがある50歳以上で、ストレスが多く、起床・就寝時間が不規則で免疫を低下させる持病があり、水痘ワクチンを接種していない人で糖尿病の予備群もしくは糖尿病の人は十分な注意が必要です」

 心当たりがある人で自覚症状があれば、早めに受診することだ。

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