手の「こわばり」は年のせい? 使いすぎ? それは違います! 更年期症状の可能性

手指の痛みや「こわばり」を放置すると日常生活に支障をきたす恐れも
手指の痛みや「こわばり」を放置すると日常生活に支障をきたす恐れも

 女性特有の悩みの一つに手指の痛みや「こわばり」がある。中高年の場合、それらは、更年期症状である可能性がある。適切な治療を受けずにいると、指の変形が進み、日常生活に支障をきたす恐れがある。

「四谷メディカルキューブ」(東京都)で手の外科・マイクロサージャリーセンターのセンター長を務める平瀬雄一医師は、「手」の治療の専門家。平瀬医師の外来の患者は9割以上が女性で、さらにその9割以上が更年期以降の年代。手指の痛み、腫れ、こわばり、しびれを訴え、指が変形してしまっている人も少なくない。

「患者さんには、すでに整形外科などの受診経験がある人がたくさんいます。しかし各種検査で病名が見つからず、『年のせい』『使いすぎ』『治らない』と言われる。結果的に放置せざるをえなかったという状況です」(平瀬医師=以下同)

 なぜ更年期症状に、手指の不調があるのか? 近年、女性ホルモンであるエストロゲンの減少との関係が考えられ始めてきた。

 エストロゲンは、生涯で分泌量が変化する。初潮以降急激に分泌量が増え、20代半ばから30歳くらいでピークに。その後徐々に減り始め、40代に入った頃から急激に減少。閉経を迎え、65歳過ぎくらいで分泌量がピーク時の8~10分の1になり、絶対的低値が続く。

 このエストロゲン、体のあらゆる機能に関係している。よってエストロゲンの急激な減少や低値で、さまざまな症状(更年期症状)が出てくる。

「更年期症状というと、真っ先に思い浮かべるのが、ほてりやホットフラッシュではないでしょうか。しかし更年期症状は150種類以上あり、人それぞれ。20年以上更年期の女性の電話相談を受けている『公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会』の2018年の調査で、最も多い訴えは肩こり、腰痛、次いで手のこわばり、関節痛となっています」

 エストロゲンの働きのひとつが、腫れや炎症の抑制だ。私たちの手には多数の骨があり、「腱」が筋肉と骨を結びつけている。腱は骨から離れないよう「腱鞘」で押さえられ、腱が往復するように移動して手指を動かしている。その摩擦で腫れや炎症が生じるのを、エストロゲンが抑制していると考えられる。

■安全で効果の高い対策あり

「ところが更年期以降のエストロゲン減少で炎症が抑制されないようになると、腱と腱鞘の摩擦が大きくなり、強い負担がかかる。それが継続すると手指の腫れ、痛み、しびれが現れ、長期に及ぶと関節の軟骨が痛み変形してしまうのです」

「更年期症状で手指の不調がよく起こる」ということは近年、手指の治療の専門家の間ではホットなテーマになっているが、すべての診療科の医師にまで浸透しているとは言えない。患者自身も更年期と関係しているとは思わない。それらが、適切な診断の困難さを招いている。

 エストロゲン減少による手指の不調であれば、エストロゲンを補うことが治療になる。ほかの更年期症状にも有効だ。

 効果が高いのがホルモン補充療法だが、乳がん、卵巣がんのリスクを上げるという可能性も。そこで安全で効果が高いとして、更年期を診る婦人科医でも勧める人が多いのが、「エクオール」という成分。大豆イソフラボンの一種で、エストロゲンと似た働きをする。複数のメーカーからサプリメントが販売されているが、医療機関で販売されているものなど、信頼できるものを選びたい。

「エクオールは、がんのリスクを上げません。更年期でない人も、エストロゲン減少で生じる更年期症状の予防策として活用できます」

 なお、エクオールは大豆を食べることで腸内で産生される代謝産物だが、エクオール産生菌という腸内細菌が必要。これを持っている人と持っていない人がいて、日本人ではエクオールを腸内で産生できる人は50%以下といわれている。

「私たちの研究では、腸内でエクオールを産生できない人は、手指の変形の率が50歳から70歳で産生者に比べて1.77倍、50代に限ると3.23倍でした」

 エクオール産生能力がない人は、エクオールのサプリメントがより役立つかもしれない。産生能力の有無を調べるキットがあるので、利用するのも手だ。

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