梅毒急増の「なぜ」

梅毒急増のなぜ(2)症状の消滅を治ったと勘違いして感染拡大

梅毒とは気づかず見過ごしていることも…
梅毒とは気づかず見過ごしていることも…

 梅毒は梅毒トレポネーマによる細菌性の性感染症だ。感染からの経過時間と症状によって早期顕症梅毒(Ⅰ期、Ⅱ期)と晩期顕症梅毒、それに無症候性梅毒に分かれる。

 Ⅰ期は感染3週間程度で侵入口に初期硬結、硬性下疳が見られるが、やがて自然消滅する。Ⅱ期はⅠ期症状出現から4~9週間で手のひらや背中に無痛性の紅斑=バラ疹、発熱、倦怠感、全身性リンパ節腫脹などの全身症状が見られるが、自然消滅する。晩期顕症梅毒は、感染後無治療で3年以上経過し、骨や筋肉や皮膚にゴムのような腫物ができる。無治療で10年以上経過すると、脊髄癆や神経麻痺のほか、大動脈解離などを起こす。一方、無症候性梅毒は「血液検査で陽性だが症状が見られない」ものを指す。日本性感染症学会功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」(東京・新宿)の尾上泰彦名誉院長が言う。

「梅毒の感染の多くは早期顕症梅毒Ⅰ期、Ⅱ期の患者との粘膜接触を伴う性行為もしくは疑似性行為によるもの。まれに梅毒トレポネーマが多量に付着した物品から手や指の傷口に感染した例も報告されています。“おもちゃ”にも注意が必要です。以前は輸血による感染が多かったが、血液のスクリーニングなどの発達でなくなりました」

 梅毒は別名「偽装の達人」と言われ、さまざまな症状が現れる。症状はしばらくして消失することもあり、梅毒の症状とは気づかず見過ごしている場合が少なくない。

「たとえば、バラ疹をじんましんやアレルギー性皮膚炎と勘違いしたり、症状が自然消滅したから治ったと勘違いするケースも多い。梅毒の疑いがあれば血液検査が必要です」(尾上院長)

 実際、国立感染症研究所の「日本の梅毒症例の動向について(2024年1月5日現在)」によると、23年の早期顕症I期の報告患者数は5579件、早期顕症Ⅱ期は3831件だったが、無症候が2551件、晩期顕症は77件もいた。

「梅毒の治療は早期顕症梅毒なら、ペニシリン系の経口抗菌薬を4週間飲むのが一般的。最近は持続性ペニシリン注射剤(ステルイズ)が登場し、1回で治療が完了します。なお、梅毒とわかったら、性交相手に連絡して梅毒の検査を受けるよう連絡しましょう」(尾上院長) (つづく)

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