感染症別 正しいクスリの使い方

【壊死性筋膜炎】できるだけ早く発見して抗菌薬治療を開始する

写真はイメージ
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 前回お話しした蜂窩織炎と似ていて、発症早期には蜂窩織炎との鑑別が難しい疾患のひとつに「壊死性筋膜炎」があります。

 蜂窩織炎は、皮膚およびその下の皮下脂肪にかけて細菌が感染した状態ですが、壊死性筋膜炎は、さらにその下の筋膜(筋肉の束を包む膜)に細菌が感染した状態です。非常に危険な疾患で、早期に治療を開始しなければ、あれよあれよという間に重篤な状態になってしまいます。

 原因菌としては、嫌気性菌に加え、グラム陽性菌、腸球菌、グラム陰性菌などによる複数菌による感染が多く、レンサ球菌やブドウ球菌などによる単独感染も知られています。とりわけ、レンサ球菌による皮膚の壊死性感染症は、俗に「人食いバクテリア」とも呼ばれていますが、ほかの菌によるものとの違いはほとんどありません。

 ほかにも、ビブリオ・バルニフィカスという細菌による壊死性筋膜炎や敗血症は、海での受傷や生魚の摂取がきっかけとなるケースが多く、肝硬変の方に多く発症することも知られています。肝硬変があると、肝臓で解毒されるはずの細菌が、トラップされずに全身に広がってしまうことが原因と考えられています。肝硬変の方は、生の海産物の摂取にも注意が必要なのです。

 壊死性筋膜炎は、発症してからは時間との勝負です。できるだけ早く検査で細菌を発見し、増殖する前に抗菌薬治療を開始する必要があります。治療は全身の状態を見ながら抗菌薬を投与し、細菌の増殖と感染の拡大を防ぎます。

 複数の細菌による混合感染の場合は、カルバペネム系のような広域に効果のある抗菌薬を選択することもありますし、レンサ球菌の発熱性外毒素Aの遊離を減らすため、クリンダマイシンの併用使用も推奨されています。

 また、すでに壊死した組織には大量の細菌が存在しているため、すぐに切除、除去してキズを清浄化する外科処置が必要になります。この処置は「デブリードマン」と呼ばれ、壊死した範囲が広ければ手足を切断することさえあります。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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