前回、空気のない所で繁殖する「嫌気性細菌」、なかでもクロストリジウム属の細菌について触れました。クロストリジウム属細菌の中でも広く知られているボツリヌス菌では、ビン詰や缶詰といった空気を抜いた保存食品(特に自家製のもの)が原因になった食中毒が報告されています。
同じくクロストリジウム属細菌である破傷風菌も、破傷風を引き起こす細菌として有名です。破傷風菌は土の中などに存在し、多くの場合、傷口から侵入して感染を起こします。ワクチンがあるため予防できる病気なのですが、今でも国内で年間100人ほどが破傷風を発症しています。
ボツリヌス菌も破傷風菌も産生する毒素が非常に大きな問題となります。どちらの毒素も運動神経の伝達を遮断するのですが、ボツリヌス毒素の場合は筋肉が伸びたまま縮まなくなる弛緩性麻痺を起こすのに対し、破傷風毒素の場合は全身の骨格筋が硬く収縮して麻痺やけいれんを起こします。
破傷風の症状は、発熱や倦怠感以外に神経が麻痺してしまうことが特徴的です。口を開けにくくなったり、顔の筋肉が引きつったり、手足の筋肉がけいれんしたりします。歩行や排尿・排便の障害などを経て、最後には全身の筋肉が硬くなって体を弓のように反り返らせたり、息ができなくなったりして、死亡するケースもあります(無治療の成人の死亡率は15~60%)。新生児破傷風は、生存しても難聴を来すケースも報告されています。
呼吸筋(呼吸するための筋肉)の麻痺により窒息することが死因の大部分を占めていますので、治療には酸素吸入など十分な換気の維持が必要とされています。また、破傷風菌に対して抗菌薬を用いるのですが、産生された毒素に対しては抗菌薬は効果がありません。
破傷風の症状の多くは毒素によるものなので、毒素に対する治療が必須となります。ここで用いられるのが「トキソイド」です。破傷風トキソイドは、破傷風菌を培養して得られた毒素液をホルマリンで処理して無毒化し免疫をつくる働きだけにしたもの、いわゆるワクチンです。治療だけでなく予防にも使用されていて、定期接種で用いる4種混合ワクチンにおいてもジフテリアと破傷風はトキソイドが用いられています。
破傷風トキソイドは破傷風の可能性がある時点で接種となりますが、さらに治療では毒素を中和するための破傷風グロブリンを使用するケースもあります。
感染症別 正しいクスリの使い方