Dr.中川 がんサバイバーの知恵

男性乳がんのブラザー・コーンが抗がん剤のつらさを投稿…セルフチェックが欠かせない

ライブ復帰を目指す(2011年撮影)/
ライブ復帰を目指す(2011年撮影)/(C)日刊ゲンダイ

「新しい抗がん剤の副作用が出始めました」

 自らのSNSにこう投稿したのは、歌手のブラザー・コーンさん(68)です。昨年8月にステージ2の乳がんであることを公表してから治療に専念。新しい薬の副作用がつらいようです。

 乳がんの罹患数は毎年、女性が10万人ほどで、男性は700人程度。女性の150分の1とまれながんですが、男性もじわじわと増える傾向にあります。

 コーンさんは左胸のしこりに気づいたことが受診に結びつき、早期発見になりました。

 読者の皆さんはなぜ男性に? そう思われるでしょうが、実は、乳がんを起こす乳腺は、性別に関係なく胎児のときにできます。生まれてから女性は女性ホルモンの影響で発達しますが、男性は発達しません。それでもごく一部の乳腺が乳頭の周辺に残っていて、そこから男性も乳がんになるのです。

 男性の乳がんは遺伝の影響が強く、性別を問わず家系に乳がん患者がいると、いない人に比べて発症リスクが2倍。特に乳がんや卵巣がんの原因遺伝子のひとつ「BRCA2」に変異がある男性は、ない男性に比べて80倍と圧倒的です。この遺伝子変異があると、前立腺がんやすい臓がんのリスクも高いことがわかっています。

 こうした特徴があるため、近親者に乳がんの患者がいる男性は、要注意です。なるべく早く見つけるには、入浴時など鏡で胸をチェックすることをお勧めします。ポイントは、左右の違いです。

 前述した通り男性の乳腺組織は乳頭周辺ですから、乳頭からの出血や分泌物の有無を確認するのがひとつ。もうひとつは、その周辺の皮膚の変色や大きさの確認です。運動すると、Tシャツと乳首がこすれて出血したり、炎症で変色したりすることがありますが、そういうことがないのに、このような症状が見られたら、放置するのはよくありません。

 男性の乳腺は、女性より小さいため、万が一、腫瘍ができた方は、もう一方より大きくなり、左右差が見られます。鏡でのチェックが重要なゆえんです。

 3つ目は、胸や脇のシコリの確認を。特に乳頭の真下のシコリは痛みがなくても、男性乳がんの特徴といわれ、コーンさんはこれが早期発見のキッカケでした。

 治療は、女性と同じでステージに応じて、手術や放射線、抗がん剤、ホルモン療法などを選択します。抗がん剤の副作用は大変ですが、治療成績に男女差はなく、早期なら完治が見込めるため、その点でも近親者に乳がんの人がいる男性は、女性のような検診がないだけにセルフチェックが欠かせません。

 男性にとって、女性ばかりの乳腺外来を受診するのは恥ずかしいでしょう。しかし、異変を感じたときは、恥ずかしさで受診をためらうより、きちんと受診しましょう。コーンさんも、抗がん剤のつらさに耐えながら頑張っていますから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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