当連載も今回で最後となりました。最後に当時精神科の病院に勤務されていた薬剤師さんとのエピソードを紹介します。
ある飲み会の席で、「手洗い」について議論となりました。私は常々、米疾病対策センター(CDC)のガイドラインを参考にしていて、当時のガイドラインでは「消毒用アルコールによる手洗い」が強く推奨されており、流水とせっけんでの手洗いは「目で見て汚れている場合には優先されるもののそれ以外では2番手」といった書き方になっていました。
ところが、その薬剤師さんは「流水での手洗いが大切」だと主張し、消毒用アルコール手洗いを推す私と大ゲンカになったのです。学生さんなども同席している中、楽しい飲み会は台無しに……とても大人げなかったと反省しています。
その後、精神科における感染症対策について、その薬剤師さんからお話を聞く機会がありました。「精神科領域の患者さんは地べたに座ったり、床を手で触ったりすることもあるのですよ」と教えていただきました。そうした環境では、流水での手洗いが大切だというのも納得です。
CDCのガイドラインの考え方では、当時、多くの病院で行われていた消毒剤による床掃除に対し、「あなたは1日何回床を触りましたか? 触ってないでしょう?」といった考えのもと、消毒剤による床掃除は不要としていました。しかし、床を触ることがありえる環境ならば、それに応じた感染対策を考えるのも当然でしょう。初めて「ガイドラインがすべてじゃない。必要に応じて臨機応変に対応しなければならないんだ」と学びました。その後、その先生方は、「一般社団法人精神科領域の感染制御を考える会」を立ち上げられています。
今後も私たちのまわりには多くの感染症が存在し続けるでしょう。必ず治る感染症ばかりではないでしょうが、それぞれに応じた正しい薬の使い方を、これからもわれわれ薬剤師は伝えていきたいと思っています。 (おわり)
感染症別 正しいクスリの使い方