突然死を招くケースが増加 “痛くない”心筋梗塞の恐怖

“心臓を素手でギューッとつかまれ、ねじられた感じ”。心筋梗塞というと、こんな激しい胸の痛みをイメージする人が多い。しかし、心筋梗塞には胸の痛みがまったくないものもあり、知らぬ間に心筋梗塞を起こし、突然死するケースが増えているという。どんな人がかかりやすく、どんな前触れがあるのか? 日本医科大学付属病院総合診療センター主任教授の安武正弘氏に聞いた。

 中村守さん(仮名、64歳)は先月、職場の仲間と昼食を取っている最中にめまいに襲われた。

 しばらくして症状が治まったが、今度は胃がムカムカしてきて、食べた物を戻してしまった。

 悪寒も感じた中村さんは“風邪でもひいたのか、食べ物にあたったのだろう”と思ったが、念のため病院へ。告げられた病名は心筋梗塞だった。

「胸に痛みのない心筋梗塞は無症候性心筋梗塞といい、目立って増えています。急性心筋梗塞で亡くなる人は年間4.2万人ほどですが、これとは別に年間1万~2万人が、自分でも気づかないまま心筋梗塞を起こして突然死している可能性があるのです」
“痛みがなければ心筋梗塞を起こしているかどうかわからないじゃないか”――。そう思われがちだが、無症候性心筋梗塞にはサインもある。

「重要なのは冷や汗です。心筋梗塞が起きると全身に送られる血液の量が急激に低下します。このとき、末梢血管はすぐに収縮し、生きるために最低限必要な血液を脳や心臓に優先的に送ろうとします。これは非常事態に対し交感神経が興奮して生じる現象ですが、末梢血管だけでなく汗腺にも刺激が伝わるため、汗が皮膚にしぼり出されます。これが冷や汗なのです」

 悪寒がする、吐く、めまい・ふらつきがある。これも危険な兆候だ。普段の体調不良の中には、無症候性心筋梗塞も含まれているかもしれないのだ。

 では、どんな人が無症候性心筋梗塞を起こしやすいのか?

「糖尿病の患者さんや高齢者の方です。長期間、糖尿病を患っている患者さんは神経障害を起こしておられ、痛みを感じません。高齢者の方も同じです。先ほどのようなサインを感じたら病院で診てもらいましょう」

 ちなみに神経障害が表れるのは、糖尿病を発症して5~10年ほど経過してからだという。読者の中には“心筋梗塞を起こしても痛みもなく、それ以降も普通に生活できるならいいじゃないか”と思う人もいるかもしれない。しかし、それは間違いだ。痛みのない心筋梗塞を起こした人は何も対策を講じないため、死亡リスクが3倍も高くなる。

 では、自分が過去に無症候性心筋梗塞を起こしているかどうかを知る方法はあるのだろうか?

「血液で急性心筋梗塞の有無を調べる迅速キットもありますが、まずは一般的な安静時の12誘導心電図をとることです。計測時間は1~2分程度でOK。本格的な心筋梗塞を起こしていれば、10年前のものでもわかります。軽症の場合は心筋梗塞の特徴が消えてしまうこともありますが、梗塞箇所が残っている間は数年前であろうが、数カ月前であろうが判定できます」

 そのうえで、大学病院などで冠動脈CT検査などの精密検査を受けることだ。

 仮に自分が以前、心筋梗塞を起こしていたことが判明した場合は、どうすればいいのか?

「糖尿病や高血圧、脂質異常症といった原因となる病気の治療をしながら、禁煙・食事・運動に関する生活指導を行います。最新の研究ではスタチンをまとまった量、投与すると、動脈硬化プラークが退縮することがわかっています。薬物療法を組み合わせることで、さらに心筋梗塞の再発を予防することができるのです」

 心当たりのある人は、まず心電図だ。

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