難病治癒か、デザイナーベビーへの第一歩か?
体外受精によるミトコンドリア病の予防治療はOKか否かが、論争を呼んでいます。
ミトコンドリア病は、文字どおり細胞の中のミトコンドリアが異常を来すことで、筋肉の硬化や臓器の機能低下などを引き起こす難病。そのほとんどが母親の卵細胞から遺伝的に受け継がれるとされています。
そこで、生まれてくる赤ちゃんの“卵”の段階での「予防」が提唱されています。ところがこの方法の「大きな問題」は、3人目の親、つまり母親以外の女性の卵子が必要なこと。ミトコンドリアに異常がある母親の卵子から核を取り出し、正常な卵子核と入れ替える必要があるからです。
“3人の親”がいる子供が生まれてくることは倫理的にいかがなものか。さらに、遺伝子操作によるデザイナーベビーへの第一歩になるのではないかという根強い抵抗が、実現を阻んできました。
この治療は英国ではすでに昨年春に承認され、今年の秋にはこの治療を受けた赤ちゃん第1号が誕生すると予想されています。
英ガーディアン紙は「この治療法は1996年に米国で開発されたもの」と断った上で、米国で承認されない理由は間違ったコンセプトを持たれているからではないかとコメント。「3人の親といっても、遺伝的形質の99.8%以上は元の両親から受け継がれる。髪の色や目の色をコントロールしようとするデザイナーベビーと比べるのもお門違い。難病の治癒というメリットに着目すべき」と批判的です。
このような動きを受け、米国医学研究所は米国食品医薬品局(FDA)に対し、実用化に向けヒト胚芽を使った臨床実験の許可にゴーサインを出すよう勧めるリポートを提出しました。今後の行方が注目されています。
▽シェリーめぐみ ジャーナリスト、テレビ・ラジオディレクター。横浜育ち。早稲田大学政経学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。
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