臓器や血管をジワジワ破壊 「過剰な塩分」があなたを蝕む

過度な塩分は健康を損ねる
過度な塩分は健康を損ねる(C)日刊ゲンダイ

「甘いものは糖尿病が怖いからダメといわれてきたが、今度は塩か」――。世を挙げての減塩ブームを苦々しく思っている中高年も多いのではないか。減塩醤油、減塩パンなどが登場、国も1日の塩の摂取量を健康な男性は8グラム未満、女性は7グラム未満を目標にするのが望ましいとしている。しかし、「塩の取り過ぎで高血圧になってもたまに頭痛や肩こりがあるくらい」などと甘く考えてはいけない。余分な塩は想像以上に体に打撃を与えている。

「過剰な塩分は長い時間をかけて血管だけでなく、心臓や脳、腎臓などの重要臓器をダメにして命に関わる病気を引き起こす可能性があります」

 こう言うのは腎臓病・高血圧の専門医で「松尾内科クリニック」(東京・桜新町)の松尾孝俊院長だ。

 塩は塩素とナトリウムの化合物で、ナトリウムは生命維持に不可欠なミネラルのひとつ。細胞外液(血液やリンパ液、胃液など消化液、細胞間質液などを含めた総称)、細胞内液や骨の中に存在する。ブドウ糖などと結合して細胞内に栄養を運ぶ手助けをするほか、胃液・胆汁の原料となったり、神経伝達や筋肉を動かすための電気信号に使われたり、体液を弱アルカリ性に保ったり、ホルモン分泌に影響を与えたりする。

「塩分を過剰に取ると、のどが渇き水を飲みますが、これは水を吸収することで体内のナトリウム濃度を一定にするためです。その結果、血液やリンパ液などの量が増え、60兆個といわれる細胞が肥大化してしまうのです」(松尾院長)

■“見えない塩”とともに血管、心臓、腎臓などを攻撃

 いわゆるむくみの状態で、細胞には打撃だ。同時に血流が増えることで血管壁はもろく傷つきやすくなり、内圧は高まる。それに対抗して血管壁は厚く硬くなる。

「腎臓は体内の老廃物以外に余分な塩分や水分を尿中に排出する。過剰な塩分摂取は腎臓に直接負担をかけます。毛細血管の固まりである腎臓の動脈硬化が進むと、腎硬化症と呼ばれる病気を引き起こす。そのまま高血圧を放置すると腎不全に進行することもあり、最悪人工透析が必要になります」(松尾院長)

 腎臓に不具合が生じると心臓にも悪影響が出る。流れにくくなった血流を通そうと無理するからだ。実際、慢性腎臓病の人は健康な人に比べて2倍の心筋梗塞発症リスクがあると報告されている。

「厄介なのは腎臓がその機能の8割が失われるまで、自覚症状がないことです。だるさやしつこいむくみなどに気が付いた時には病状は進行しています」(松尾院長)

 余分な塩分は直接的に心臓や血管を攻撃する。東邦大学佐倉病院循環器科の東丸貴信教授が言う。

「過剰なナトリウムは心臓の筋肉を動かす電気信号に乱れを生じさせ、不整脈や心不全を起こす可能性を高めます。また、血管を緊張させる交感神経を活性化する作用もある。血圧を上昇させて血管を傷害したり、心肥大や心不全を生じるだけでなく、直接的に血管の炎症や免疫異常を起こし動脈硬化や高血圧を生じている可能性が考えられています」

 脳内出血が多かった長野県では減塩運動で大幅に患者数を減らしたことが知られており、脳と塩との関係も深い。

「また、過剰な塩分は骨の成分であるカルシウムを尿中に排泄して骨をスカスカにします。胃液を濃くして胃壁を荒らし、胃がんの原因にもなる。国立がん研究センターも減塩を勧めています」(都内の内科医)

 6グラム以下の過度の減塩は逆効果との報告もあるが、過度な塩分が健康を損ねることは間違いない。

“見えない塩”が大量に使われている加工食品やインスタント食品は想像以上に多い。現代人の食卓は常に過剰な塩分の脅威にさらされている。せめて自分でできる味付けは塩だけに頼らず酢や出汁、生姜やからしなどで代用することだ。

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