いきむな危険! トイレでは脳卒中や心臓病に要注意

いきむな危険!
いきむな危険!(C)日刊ゲンダイ

 中高年は夏のトイレで強くいきんではいけない。屋外では大量の汗をかいて脱水状態になって便が硬くなるうえ、冷房の効いた室内では体が冷えて血行が悪くなり、食欲低下などで腸の働きが低下して便秘になりやすい。そこで無理して排便しようといきむと、脳や心臓などの血管に急な血圧がかかり、重大病を招きかねない。

 中原和幸さん(52歳=仮名)が亡くなったのは2年前の7月末。技術開発型の企業の役員だった中原さんは、会社のボウリング大会後の飲み会に参加。トイレで倒れているのを発見され、病院に運ばれたものの、助からなかった。脳梗塞だった。

「当日は花火大会の影響で病院搬送に時間がかかったのが悔やまれます。ビール片手に陽気に振る舞っていた中原さんは、血圧が高く、普段から利尿剤も飲んでおられました。汗をたくさんかく夏は便秘気味で困る、とこぼしていました」(会社関係者)

 便秘とは「3日以上排便がない状態か毎日排便があっても残便感がある状態」をいう。「平成25年度国民生活基礎調査」によると、男性は50代から、女性は20代から急に便秘が増える。別の調査では60代半ばの半数は下剤を常用しているという。

 便秘と脳梗塞とは一見無関係に見えるが、そうではない。鹿児島赤十字病院の研究報告では、便秘の男性は便秘のない男性よりも心血管イベントのリスクが高いことが報告されている。大阪大学医学部公衆衛生学教室の研究では、排便回数が「2、3日に1度がやっと」という男性は、「毎日排便する」男性よりも心血管死や脳卒中死リスクが高かった。しかも、下剤を使っている人は脳血管が詰まる虚血性脳卒中との関連が強く、使っていない人との比較では女性で1.45倍、男性で1.37倍も高かった。

■水分を多めに摂って便秘対策

 とくに夏は脳梗塞に注意が必要だ。寒さで血管がこわばる冬に多いイメージがあるが、国立循環器病研究センターの調査では、1年間で夏が最も多いという。東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授が言う。

「中高年は高血圧などの生活習慣病やこれによる動脈硬化症に加え、精神的なストレスや運動不足など、心血管イベントのリスクをいくつも持っています。こういう人が便秘になって必死で排便しようといきめば、血圧が上昇し、血管や心臓に負担をかけます。その結果、脳梗塞や脳出血といった脳卒中や心筋梗塞を起こすのです。とくに夏場は脱水で血液が詰まりやすいうえ、エアコンによる冷えで血管が縮まって血流が滞り血栓ができやすい。脳梗塞には気をつけなければなりません」

 実際、トイレで軽くいきむだけで最大血圧が60~70㎜Hg以上、強くいきむと100㎜Hgもアップするといわれている。しかも、便秘で腸内細菌のバランスが壊れ、TMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)が増えると、動脈硬化が進むことがわかっている。

「TMAOは、細胞膜の主成分であるレシチンと呼ばれるリン脂質のひとつが、腸内細菌叢によって代謝されてできたものです。TMAOの血中濃度が高いと、悪玉LDLコレステロールが動脈壁マクロファージに取り込まれ動脈硬化巣ができます。すなわち、心血管イベントのリスクが高くなったということです」(東丸教授)

 では、便秘による心疾患イベントを避けるにはどうすればいいのか? サラリーマンの病気に詳しい弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「朝起きたら水を1杯飲むほか、日中も水分を多めに摂取しましょう。睡眠をしっかりとり、体をひねるストレッチで腸を動かすことも大切です。食物繊維のほか、ヨーグルト、納豆、キムチなどの発酵食品を積極的に取り、腸内環境を整える必要があります。また、つま先立ちして肛門括約筋を刺激するのも便秘解消の役に立ちます」

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