数字が語る医療の真実

終末期の患者にとって「在宅酸素療法」は意外に効果がない

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 死期が近づき、残された時間が数週間という状況になると、心臓や肺の機能も低下し、体の酸素濃度も下がってきます。酸素の治療は現在では在宅でも容易に導入でき、半日もあれば自宅に酸素の機械を設置することができます。

 こうした終末期の酸素低下に対しては、この在宅酸素療法で対応可能と思われるかもしれません。しかし、点滴と同様、ここでも研究結果は意外な事実を示しています。

 終末期の酸素の効果も、点滴と同じくランダム化比較試験により検討されています。この研究は、余命が1カ月程度と予想される終末期の患者を対象に、「毎分2リットルの酸素を流すグループ」と「毎分2リットルの空気を流すグループ」に分けて、朝夕の呼吸困難の程度を7日間にわたり比較しています。

 その結果は、朝の呼吸困難症状の変化は、酸素を流したグループで20%の改善に対し、空気を流すグループで15%の改善でした。

 数字の上では酸素投与のグループが勝っていますが、統計学的な差はないという結果です。

 では、夜の症状はどうでしょうか? 前者で7%、後者で11%と、むしろ空気を流したグループで改善度が大きい傾向にあります。

 在宅酸素療法の導入は、多くの呼吸困難の患者の症状をやわらげます。

 しかし、終末期の患者にとっては、症状をほとんど改善しないばかりか、チューブにつながれ、医療費の負担を増やすだけの“有害な医療”かもしれません。少なくとも、酸素が足りないのだから酸素を吸わせてあげればよいという単純な話でないことは明らかなのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。