腰椎椎間板ヘルニアは、腰痛の多くを占める原因のひとつ。腰椎の間にある椎間板は、背骨にかかる負荷を軽くするクッションのような役割を担う。この腰椎が、加齢などさまざまな理由で椎間板から飛び出すと、脊椎の神経を圧迫してギックリ腰のような激しい腰痛と下半身のしびれが起こる。
「腰椎椎間板ヘルニアの一般的な治療は、まず保存療法を行い、3カ月ほど様子を見ます」(北青山Dクリニック・泉雅文医師)
保存療法は、薬物治療やブロック注射などによる治療になる。
これだけで症状が改善しなければ、より積極的な治療が検討される。かつては「LOVE法」と呼ばれる切開手術が主な選択肢だったが、全身麻酔による切開手術で入院期間は数週間に及び、後遺症のリスクもある。そのため手術に踏み切れず、「マッサージでだましだまし……」という人が多かった。
しかし今、保存療法と切開手術の間に、いくつもの選択肢が出てきた。しかも、いずれも低侵襲性がポイントだ。
代表的なのは、まず「内視鏡下手術」。MEDとPELDの2つがあり、MEDは全身麻酔で背中側から入れた筒を通して内視鏡を挿入する。PELDは意識を残した麻酔(硬膜外麻酔)で内視鏡を直接椎間板に挿入する。
MEDとPELDでは、後者の方が体への負担が少ない。
傷痕はMEDが18ミリ、PELDは7ミリ前後。一般的にMEDは1週間ほど入院が必要だが、PELDは数日の入院で済む。
「PLDD」と呼ばれるレーザー治療もある。椎間板に針を刺し、レーザーで椎間板を焼いて縮ませる。
「メスを使わないので、傷痕はほぼ残りません。局所麻酔で日帰りで行えます」(泉医師)
■保険が適用されない治療法も
内視鏡下手術のPELDと、レーザー治療のPLDDでは、どちらを選べばいいのか?
同クリニックの阿保義久院長は、「PELDは優れた治療法ですが、低侵襲性であっても手術には変わらない。腰椎の大きさや位置にもよりますが、単純に治療内容で比較すれば、PLDDの方がより低侵襲で、保存治療の次の治療として、第一選択にするのが理想的」と話す。
ただし、ネックになるのが治療費。内視鏡下手術は健康保険が適用され、申請すれば収入に応じた額が戻ってくる高額療養費制度も利用できる。
しかし、PLDDは健康保険が適用されない。北青山Dクリニックでは、トータルで50万円前後の治療費がかかる。つまり、低侵襲性や入院期間などから見るとPLDDに軍配が上がるが、治療費を抑えたい人にはPELDが向いているといえる。
さらに、治療を選ぶ上で阿保、泉両医師が注意を促すのは「本当に腰椎椎間板ヘルニアか?」ということだ。他院でそう診断されたと来院した患者には、「実は、痛みの原因は腰椎椎間板ヘルニア以外にあった」というケースが珍しくないからだ。
「こういう場合、他院での診断は大抵、レントゲン検査だけしか行われていません。しかし、腰椎椎間板ヘルニアは椎間板が神経にどれだけダメージを与えているかをチェックしなければならず、それらはMRIでなければ診断できません」(泉医師)
高齢者では複数の疾患によって痛みが生じていることも。痛みは神経に関係している。だから、脊椎を専門に診る神経外科医が治療を受ける上でベターだという。
腰痛と完全にさよならできる時がやってきたか。