成人の2割が重度の悩み抱え…「慢性疼痛」治療最前線

慢性疼痛は生活の質を下げてしまう
慢性疼痛は生活の質を下げてしまう(C)日刊ゲンダイ

 慢性疼痛に悩んでいる人は実に多い。一般成人の2割、220万人が「重度の慢性疼痛」を抱えているという調査結果がある。

 もし、あなたが慢性疼痛を我慢している人の一人なら、ペインクリニックを受診してはどうか?

 同調査では、「慢性疼痛治療で半数近くの人が整形外科を選択」「ペインクリニックを受診する人は1割未満」という結果も出ているが、疼痛治療の専門科はペインクリニックになる。

 慢性疼痛治療の症例数でトップクラスを誇るNTT東日本関東病院ペインクリニック・安部洋一郎部長は、「10年ほど前までは『痛みの治療=消炎鎮痛剤』だった。現在は、患者の生活習慣も考慮し、きめ細かい治療の選択肢を提示」と話す。それによって、慢性疼痛の長年の苦しみから解放された人もいる。

 何が違うのか?

 まず、慢性疼痛を分類し、それぞれに応じた治療が行われている点だ。

 慢性疼痛のひとつは、障害によってだれもが感じる「侵害受容性疼痛」。通常、原因が治癒すれば痛みは消える。さらに、精神疾患などが関係する「心因性疼痛」、神経系統の故障で異常なサインが脳に送られ、痛みに過敏になったり増幅されたりする「神経障害性疼痛」がある。

「一般的な慢性疼痛は3つが混在し、時間の経過で占める割合が変化します。このうち、メカニズムが複雑で『複雑系の痛み』ともいわれるのが神経障害性疼痛です」

 神経障害の故障があるかどうか、どれほどの割合を占めるかの見極めが治療のカギになる。言い換えれば、この最初の診断がうまくいかなければ、治療戦略が間違った方向にいってしまう可能性がある。疼痛の専門家による見立ての重要性がここに表れる。

 慢性疼痛の主な治療は、薬、神経ブロック、神経刺激、光線、認知行動など多岐にわたる。

「いずれにしろ、ペインクリニックとしての治療目標・計画は、『体を動かしやすい状態にする』『体を動かすことの重要性を認識させる』こと。たとえば、薬が痛みによく効いても、ふらつきや眠くなるなど身体運動を減少させる副作用がある場合は、別の治療法を考えなくてはなりません」

■「脊髄刺激療法」に注目

 慢性疼痛は、交感神経を活発化させるため血流が低下し、痛みの物質の代謝が悪くなる。痛みがあると体を動かさないので、血流低下に一層拍車をかける。それらが痛みの悪循環を招く。

 だから、慢性疼痛とうまく付き合っていくには、単に薬で痛みを抑えるだけでなく、血流アップにつながる「体を動かす」ことが必要不可欠なのだ。それゆえに、前述の「患者の生活習慣を考慮」した治療が求められる。

 薬や神経ブロックなどの次の選択肢としては、「脊髄刺激療法」が注目されている。特殊な機器を脊髄に埋め込み、微弱な電気を流し、痛みを和らげる。今年、「条件付きMRI対応」「非充電式」など“新スペック”を備えた機器も登場し、より注目度は高まっている。

「本埋め込みの前に試験的に使用する期間(トライアル)を設けるのですが、このトライアルだけでも慢性疼痛が軽減するケースが少なくありません。トライアルが治療の一環でもあるのです」

 慢性疼痛は生活の質を著しく下げる。「どうせよくならない」と諦めず、専門医のもとで適切な治療を。

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