数字が語る医療の真実

マンモグラフィーの乳がん死に対する効果の本当のところ

 以前紹介した乳がん検診についてのデータは、9つの研究を統合したランダム化比較試験のメタ分析という質の高いものでした。しかし、実際にはその9つの研究の質にはばらつきがあり、5つの研究は研究手法上に問題があり、より妥当性が高い研究は4つに過ぎませんでした。

 そのため、質の高い4つの研究に限って同様な検討をした結果も報告されています。それによれば、相対危険は0.90で、「100の乳がん死亡を90まで減らす」という結果です。前回の0.84という数字に比べて、やや効果が小さいという結果です。

 さらに細かく、年齢ごとの結果を見てみましょう。50歳未満で0.87、50歳以上で0.94と、「50歳以上でより効果が大きい」という以前の結果とは異なっています。

 さらに、この「100から90に減る」という結果ですが、統計学的に有意な差ではなく、偶然減ったように見えるだけ、という結果かもしれないというものです。

 また乳がん死亡に対する効果を「比」でなく「差」で見ると、検診群0.34%、検診を受けない群0.33%でした。その差は0.01ポイントに過ぎないことが分かります。

 質の高い研究をまとめた結果と、質の高いものを含めた結果のどちらが妥当かといえば、前者が妥当というのが普通の考え方でしょう。マンモグラフィーによる乳がん死亡に対する効果は、仮にあるとしても、皆さんが期待する効果よりかなり小さいということは、はっきりしているように思われます。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。