たった1滴の唾液検査で膵臓がんの早期発見が可能になる

唾液による検査風景
唾液による検査風景(C)日刊ゲンダイ

 早期発見が難しい膵臓がん。しかし、1滴の唾液を調べるだけで早期の膵臓がんでも反応するスクリーニング検査が実用化された。開発したのは東京医科大と慶応大のグループが起業したアカデミックベンチャー「サリバテック社」。同社CEOで大泉中央クリニック(東京都練馬区)院長の砂村眞琴・東京医大兼任教授に、その精度を聞いた。

■末期での発見が4割以上

 膵臓は体の最も深いところ(胃の後ろ側)にあり、がんができても見つかりにくく、初期の段階では症状はほとんどない。国立がん研究センターの調べでは、発見された時点で他の臓器に転移して手術ができない4期のケースが40%以上、一方、転移のない0期と1期での発見はたった12%。全体の5年生存率は10%前後とされている。

「膵臓がんの検査は、主に超音波検査(エコー)で行われていますが、それでも膵臓全体が診られるわけではありません。膵尾部のがんはほとんど見逃されてしまう。運がよければ早期発見できるという程度です」

 消化器外科医の砂村医師は東北大准教授時代に膵臓がんを専門にし、がんの遺伝子異常なども研究してきた。2006年、大学を辞めて東京の地域医療を始めたが、東京医大の医師から引き続き研究することを勧められ再開したという。

「がんの遺伝子やタンパク質の研究をやっていましたが、お金も手間もかかって実際、臨床現場には応用できませんでした。それで、簡単に採取できてコストもかからない体の代謝物質に目をつけたのです。慶応大の杉本昌弘先生と研究を始めたところ、唾液中からのものが最もきれいに解析でき、膵臓がんの診断に使える代謝物質が発見できたのです。偶然の発見で目からウロコでした」

 唾液検査は、プラスチックのチューブ容器にストローを使って唾液を1滴(0.2~0.4㏄)垂らすだけ。それをマイナス80度で保管し、山形県鶴岡市にあるサリバテック社の研究所衛生検査所に送って解析をする。

「調べるのはポリアミン類という代謝物質で、がん細胞が増殖するときに必要となる物質です。膵臓がんでは『スペルミン』と『スペルミジン』という物質が重要な働きをしていて、3つの物質の濃度などを総合的に多変量解析します」

 検査の結果は0~1の間の数値で表示され、健常者の平均値は0.17で、膵臓がん患者の平均値0.81に近いほどがんの疑いが強くなる。

「被検者の数値が0.5を超えると、精密検査を受けた方がいいと指導します。これまでの研究でステージ1期の早期のがんでも数値の上昇が確認できています」

 検査結果が出るのは2週間後くらい。膵臓がんだけでなく、肺がん、乳がん、大腸がん、口腔がんもセットでスクリーニングしてくれる。ただし、検査費用は保険適用外になり、昨年12月から始めた大泉中央クリニックでは特別価格の1万5000円(税込み)。今後、東京ミッドタウンクリニックや東京医科大学病院などでも受け付けを開始する予定という。

膵臓がんのリスクが高い人
●良性膵臓腫瘍(膵のう胞)のある人
●膵臓がんの家族歴のある人
●慢性膵炎の人(原因不明が多い)
●治療を受けても糖尿病が急に悪化した人

関連記事