胃壁から出血することも 「痛み止め」服用のリスクを知る

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 季節の変わり目は体のアチコチが痛む――。そんな中高年も多いのではないか。痛みが出るたびに「思わず鎮痛薬に手を伸ばしたくなる」という気持ちはわかるが、胃の対策は大丈夫だろうか? 痛み止めの中には胃の粘膜の防御機能を低下させるだけでなく、併用している薬によっては胃壁から出血させることもある。注意が必要だ。

 中山竜彦さん(仮名、63歳)はこの時期、市販の鎮痛薬が欠かせない。天気が下り坂になるたびにひどい頭痛に襲われるうえ、持病の腰痛がうずくからだ。
“わざわざ病院へ行くほどでもない”と市販薬を常用していた中山さんだが、最近、病院で動脈硬化を指摘され、血液をサラサラにする薬を飲むようになった。それ以降、コールタール状の便が出るようになった。

「中山さんの便は胃から出血したために起きた黒色便です。痛み止めと、血液をサラサラにする薬の副作用が原因でしょう。痛み止めの多くは、非ステロイド系消炎・鎮痛薬(NSAIDs=エヌセイズ)と呼ばれる薬です。痛みの原因物質であるプロスタグランジンを生成する酵素をブロックすることで痛みを和らげます。しかし、このプロスタグランジンの生成を止めると、胃粘膜では防御機能が抑制され、胃粘膜の修復作用が弱まり、胃が荒れたり胃痛などを起こすのです」

 こう言うのは「鳥居内科クリニック」(東京・成城)の鳥居明院長だ。

■「座薬なら問題ないのでは」も大きな間違い

 このような、痛み止めが原因となる胃・十二指腸の潰瘍を「NSAIDs潰瘍」という。関節リウマチや変形性関節症などの治療で、非ステロイド系消炎・鎮痛薬を常用している高齢者に多く発生する。

「薬以外で胃の粘膜を荒らすのは、強いストレスや大量飲酒、喫煙、それにピロリ菌などです。心当たりのある人は気をつけましょう。困ったことにNSAIDs潰瘍は、通常の胃・十二指腸潰瘍と違って、みぞおちあたりの痛みや胸やけ、ゲップなどの症状が表れにくく、突然、吐血や下血を起こしたり、自覚のないまま貧血が進行することがあります」

 そんな状態で血液をサラサラにする薬を使えば、胃や腸から出血するリスクが高くなるのは当然だ。

 ちなみに、止血には2つの段階がある。①血小板が血管の傷ついた部分にくっつき、血小板同士が塊をつくる②凝固因子が働きフィブリンという糊が塊を強固にする。

 これを防ぐための血液をサラサラにする薬は「抗血小板薬」と「抗凝固薬」の2種類があり、一緒に使っている人は出血リスクはさらに高まる。

 では、どうすればいいのか?

「血液をサラサラにする薬を飲むように勧められた際は、必ず常用している消炎・鎮痛薬の話を医師に伝えること。さらに医療用鎮痛薬を使用する場合には、ほとんどの医師は胃酸の分泌を抑えて胃の粘膜を守る『プロトンポンプ阻害薬』(PPI)や『H2ブロッカー』などの薬を処方します。面倒くさがらずキチンと飲みましょう」

 内服薬と違って座薬なら問題ないと考える人もいるが、これは大きな間違い。座薬でもNSAIDsなら潰瘍リスクが高まるのは同じだ。

 薬局で自由に買える一般薬の中には胃への負担を軽減する成分を入れているものもあるが、油断は禁物だ。

「処方薬でも同じですが、胃の防御能力が落ちる空腹時や飲酒時に服用するのは厳禁。1日または1回の使用量を守り、時間を空けて服用するといった用法用量をきちんと守ることが大切です」

 数多くの薬を飲んでいる中高年は、胃のケアが必要だということを覚えておこう。

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