“病は気から”に数々の研究報告 プラセボ効果はなぜ起こる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 乳糖やでんぷんなどを固めただけの錠剤が不安や不眠を治し、生理食塩水だけの注射が痛みを緩和し、見せかけの手術が症状を改善する――。人間は「もうすぐ病気がよくなる」と単純に信じることで病気が治ることがある。昔から「病は気から」というが本当なのか? 事実なら、それを利用することはできないのか?

 何の有効成分もない物質やニセの処置によって患者に生じる有益な結果をプラセボ効果と呼ぶ。

 このプラセボ効果はこれまでも国内外で繰り返し報告されている。「中野病院」(栃木県栃木市)の管理薬剤師で「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰の青島周一氏が言う。

「すでにプラセボ効果は科学的な研究でも示されていて、偽薬でもしっかり飲めば死亡リスクや心臓病の発症リスクが低下することが分かっています」

 プラセボ効果は、偽薬以外の治療行為にも存在することもわかっている。

 世界11の病院で脊椎骨折患者131人を対象に半数が椎体形成術を受け、半数にはニセの手術を受けるにあたり「セメント注入を受けた可能性が50%ある」と伝えて1カ月間の追跡調査をしたところ、両群に治療効果に差がなかったという。2014年に専門家が狭心症から膝関節炎にいたる外科手術53件のプラセボ効果を調べた研究では、約半数の手術で効果に差がなかったとも報告されている。

 驚くべきは、ニセの医療行為であると知っていても「治るかもしれない」と患者が思い込めれば、効果が望めることだ。

 ハーバード大学の心理学者カーシュらの研究グループは10年の研究で過敏性腸症候群の患者40人に「あなたが飲むのは薬理効果のない物質でできた薬ですが、心身の自己回復過程を介して症状を大幅に改善する可能性があることが臨床試験によって明らかにされています」と説明。1日2回、21日間投与したところ、まったく治療を受けなかった患者40人と比べ経過は良好で、重症者の数が減少したという。

 ニセと分かっていても効果があるということは、プラセボ効果は偽薬やニセ手術などだけで引き起こされるとは考えにくい。何によって起こるのか? 独協医科大学越谷病院こころの診療科の井原裕教授が言う。

「私は、治験に伴う“医師面接そのもの”が効いているのではないかと考えています。薬の有効性、安全性を調べるための治験は通常、数週間行われます。その間、被験者の方は、1、2週に1度、30分程度、担当医から“痛みはありませんか”“眠れましたか”などと聞かれます。毎週のように医師が一対一での丁寧な健康相談を行うわけです。こんな心強い経験は、誰にとっても初めてでしょう。その心理的効果が大きいと思います」

 08年の米国のプラセボ研究もこれを証明している。

 過敏性腸症候群の患者262人を対象とした研究は、「ニセのはり治療を施す群」と「順番待ちの待機群」に分け、前者をさらに「治療側と会話が全くない」群と「治療側が大げさに思いやりと共感を示した群」とに分けて行われた。

 結果は、待機群で腸の症状が改善したという人は28%、会話がない群は44%、思いやりを示された群は62%だった。

■大げさな配慮や気遣いで治療効果がアップ

 別の研究では、分娩中に一対一のサポートを受けた妊婦は帝王切開や器具の使用が少なくなることが判明している。つまり、患者への配慮や気遣いのある病院ほど患者は痛みが治まり、治療効果が上がるのだ。

 むろん、プラセボ効果はすべての人がどんな状況になっても効果を発揮するわけではない。

「1型糖尿病の人に偽薬を与えてもインスリン投与が不要になるわけでもないし、切断した脚が生えてくるわけではありません。つまり、プラセボ効果はいま現在、体に備わっている器官に対する作用に限られ、生活の質の向上や痛みなどを軽くすることです」(前出の青島氏)

 ただし、プラセボ効果は予測不能で、同一の偽薬による反応は人によって違うし、病気の種類によっても異なる。痛みや不眠、疲労や吐き気、腸や泌尿器などの効果が大きいことがわかっている。

「プラセボ効果は主観的な部分に限られるのではないでしょうか」(前出の青島氏)

 主治医が知的で温厚な表情をしている。看護師のやさしく献身的な態度……。医療技術に上乗せするプラセボ効果を得たければ、こうした病院を受診するのがいいかもしれない。

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