2週間で“汗をかける体質”に 酷暑に負けない体のつくり方

今からでも遅くない
今からでも遅くない(C)日刊ゲンダイ

 1951年以降の関東地方の梅雨明け日の平均は7月21日ごろ。順当なら、あと半月ほどで本格的な夏がやってくる。気象庁の3カ月予報によると、今年は8月から例年以上の猛暑だという。そこで注意したいのが猛暑に増える熱中症や心筋梗塞、脳梗塞といった死を招く病気だ。それに備えるには今、何をしたらいいのか?

■正しく汗をかいて熱中症になりにくい体に

「大事なことは長時間の暑さに耐えられるよう、今から体を変化させることです。これを『暑熱順化』といいます。具体的には暑さで体温が上昇しないよう、汗をたくさんかける体にすることです」

 こう言うのは「汗はすごい」(ちくま新書)の著者で愛知医科大学名誉教授(生理学)の菅屋潤壹医師だ。

 人間は生きるために脳や内臓を含む領域の温度(核心温)を一定に保つ。このために、体を動かすなどしてつくられた体内の熱は、血液を通して皮膚表面へと運ばれ、汗などにより外部に放散される。

 特に気温が上昇すると、皮膚の血管が拡張して皮膚表面に大量の血液を集めて汗をつくる。一方で皮膚温度を上げることで熱が体外へ逃げやすい環境をつくるという。

「このため、脳が指令を出して血液や心臓に大きな変化を起こします。内臓にたまった血液の多くを皮膚に向かわせ、心臓から押し出される血液量を快適な気温の場合と比べて2倍近くに増やします。その後、皮膚に血液を大量にとどまらせるために、心臓に戻る血液量が減ってしまいます。ただでさえ、汗をつくるせいで血液量が少ないのですから、心臓は収縮しても血液を押し出せない状態になる。心臓に負担がかかり、血液は固まりやすくなって脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上がるのです」(菅屋名誉教授)

 この状態を改善するのが暑熱順化だ。体温上昇を先に察知して汗が早く大量に出るようになる。東邦大学名誉教授で平成横浜病院健診センターの東丸貴信医師が言う。

「暑熱順化が完成すると体温の上昇が少なくなり、心拍数の増加が軽減されます。また、汗腺の働きが活発になり、汗の中の塩分を再吸収します。そのことで、体の中にとどまる血液量が増えて、体温が上がりにくくなるのです。結果、比較的少量の水分補給で体液量が回復するようになり、熱中症や脱水になりにくくなるのです」

■運動と入浴で脳の機能を高める

 かつての日本人は夏になるとこの暑熱順化を自然に手にしていたが、空調が当たり前の今は、これが難しくなってきた。とはいえ、エアコン生活をしていても、毎日のように運動したり、通勤などでよく歩いていれば、夏には自然に暑熱順化が成立する。これができない人には、意図的に熱刺激を与える工夫が必要だ。ただし、70歳以上で汗腺が衰えて汗をほとんどかけない人は、暑熱順化が成立しないことがあるので注意したい。

「理想は運動です。例えば10分のウオーキングを1日5回、休憩を挟んで行えば、1週間程度である程度の暑さに慣れるといわれています」(東丸名誉教授)

 ただし、暑熱順化は一時的であって、仮に完成しても熱刺激がなくなれば1~2週間で効果は減少し、3週間までにほぼ完全に消失する。不完全な暑熱順化であれば、涼しい日が数日続けば効果が消えるといわれている。

「暑熱順化が成立するには1回で38度の核心温を連続1・5時間維持することが必要です。これを10日間ほど繰り返すと確実に暑熱順化を手にすることができます。入浴は、熱刺激の方法としては良い方法ですが、普通の入浴では42度のお湯に肩まで10分つかっても核心温は38度にはならないので、暑熱順化の方法としては不適切です。二酸化炭素の皮膚吸収を高める特殊な油脂を添加した二酸化炭素発生の発泡入浴剤を使った入浴なら、暑熱順化のように汗を増やすことができるかもしれません」(菅屋名誉教授)

 この入浴剤を使って毎日10分間、普通の入浴を繰り返すと、2週間ほどで脳の機能が高まって発汗作用が促され、汗が20%増えたとの報告もあるという。

 気温と熱中症による救急搬送者数・死亡者数を調べた研究によると、比較的低い気温が続いた後、急激に気温が上昇した場合に熱中症が発症しやすいという。また、熱波が複数回襲来する年は第一波のときが最も多く、重症例が多いことが報告されている。その意味では梅雨明け後の最初の猛暑は要注意だ。「汗は臭うし嫌」なんて言っている場合じゃないのだ。

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