「食べる力」は取り戻せる “不可能”診断に2つの問題点

“食”は楽しむもの
“食”は楽しむもの(C)共同通信社

 脳卒中や認知症で要介護になると、食べる・飲み込む力が落ちる。医師からは「経口摂取は不可能」と言われがちだが、その言葉を疑うべきだ。

「口から食べたり飲んだりできなくなる人は、ごくわずか。大半の人が、適切なケアやリハビリによって、経口摂取が可能になる」

 こう話すのは、20年にわたって9000人以上の食事介助を行ってきた「口から食べる幸せを守る会」理事長の小山珠美氏だ。

■食事介助をする側に問題があるケースも

 そもそも、なぜ経口摂取が不可能と診断されるのか? それは、嚥下機能の低下で、細菌を含んだ食物や唾液が肺に侵入し、感染を引き起こす「誤嚥性肺炎」のリスクが高まるからだ。

 高齢者では死につながりかねないため、本当に「食物を飲み込めない」状態であれば、人工的な栄養補助法である胃ろうや経鼻経管栄養などを検討するのは仕方のないことになる。

 ところが実際は、「経口摂取が可能」であるのに「不可能」と診断されている人が多い。大きく分けて2つの問題点が関係している。

■ハードルが高すぎる診断法

 経口摂取が可能かどうかを診断する際、一般的に行われるのが、内視鏡を喉に挿入して嚥下機能を見る「嚥下内視鏡検査」や、検査用食品を飲み込みレントゲンで嚥下機能を見る「嚥下造影検査」だ。

 小山氏は、「受けたことがありますが、呼吸もできず、痛くてつらい検査でした。健康な人でもうまく飲み込めない。脳障害があったり認知症の人には非常にハードルが高い」と話す。

 たとえるなら、「歩く機能が衰えた人に、いきなり100メートル走をさせ、タイムが○秒以下なら『自力歩行は不可能』と診断するようなもの」だという。食べる力が落ちたなら、しかるべき練習が必要。寝たきりで意識が朦朧とした段階で検査のみが優先される場合も少なくない。

■誤った食事介助

 小山氏は全国各地で食事介助のセミナーを行っているが、「医療・福祉関係者も含めて、95%が誤った食事介助をしている」との実感があると話す。

 たとえば「姿勢」だ。食事介助を受ける人が、あごを上げたり横を向いたりする姿勢では、誤嚥が起こりやすい。「食べ物が目で見えること」も重要。視覚を遮るようにしてスプーンを口元に運べば、介助を受ける人は口を開けるタイミングをつかめず、誤嚥しやすくなる。

「食物を口のどこに接地するか」にもコツがある。舌運動や口唇閉鎖をうまく誘導し、飲み込みを助ける位置に置くことがポイントだ。口腔内衛生を整えることも欠かせない。

 ここに挙げたのはほんの一例。「正しい食事介助法」を知らないばかりに、誤嚥を引き起こしたり、「本人が食べたがらない」という結果を招く。食事介助をする側に問題があるのに、「介助される側に問題あり=経口摂取不可能」とされがちなのだ。

 これら2つの問題点を踏まえて、まず重要なのは「口から食べたい」という確固たる意志を、患者家族が医療者側にしっかりと表示すること。

 その上で、嚥下機能を見る検査の確認、食べるための訓練の有無、胃ろうを勧められた場合はその理由を問い合わせる。医療従事者と積極的にコミュニケーションを取ることが大切。小山氏のセミナーに参加し、食事介助の方法を身につける手もある。病院にお任せでは、「口から食べる幸せを守る」ことは困難なのだ。

▽小山珠美(こやま・たまみ)
看護師で、国内の食事介助の第一人者。著書に「口から食べる幸せを守る」など

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