クスリと正しく付き合う

必要ない薬を漠然と飲み続けると国民全体に負担がかかる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「薬の適正使用」とは、「薬を必要なときに必要な量を使う」ということです。前回は、必要ではない薬を飲み続けることによる副作用のリスクについて取り上げました。

 今回は医療経済上の観点からお話しします。

 まず、薬を適正に使うことは薬代の節約につながります。薬が必要な時に必要な量だけをきちんと飲んで、必要なくなれば飲まないようにするわけですから、無駄遣いの防止になります。

 では、お金が有り余っている人は、どれだけ高額な薬でもじゃんじゃん使ってよいのか、というとそういうわけではありません。日本は国民皆保険制度がありますから、誰でも保険診療を受ける限り、医療費(薬代も)の7割~全額が保険または公費で賄われています。

 これは、巡り巡って税金で賄われているということです。

 つまり、やみくもに高い薬を使えば使うほど、国民の負担は増えていくことになります。就労人口の割合が低下している日本においては、おそらく今のままでは皆保険制度を維持していくのは難しくなるのではないかと感じています。

 もちろん、必要な薬を必要な患者が使うのは当然ですし、これは適正な使い方です。しかし、必要のない人が漫然と薬を飲み続けることは、国民全体の負担を増やすことにつながるのです。そして極端に言えば、「自由(自費)診療」や「民間保険会社」で薬代が全額自己負担ならば、どんな薬をどれだけ使おうと個人の自由ということになります。

 実際、医療業界にもインバウンド(訪日外国人旅行)は広がりつつあり、外国人裕福層をターゲットにした人間ドックや手術、抗がん剤治療なども行われています。これらは自由(自費)診療ですので、日本の医療経済を圧迫することはありません。むしろ、日本の経済にプラスとなる新しいビジネスともいえるでしょう。

 最近は、高額薬剤や超高額薬剤の種類も増えてきています。それらの多くが薬効的に優れているのは紛れもない事実です。だからこそ、医療経済的観点からも「薬の適正使用」がしっかりと議論されるべき時だと考えています。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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