日本では症状の軽い人を含めて約1000万人のアトピー性皮膚炎の患者がいるといわれている。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、かゆみが出て湿疹が出来るこの病気はそれだけでも厄介なのに、失明につながる目の病気にかかりやすいという。その代表的なものが「白内障」と「網膜剥離」などだ。通常の「白内障」「網膜剥離」と何が違うのか。清澤眼科医院(東京・江東区)の清澤源弘院長に聞いた。
「私は大学の皮膚科に入院して治療を受けたアトピー性皮膚炎の患者さんたちの目の症状を調べたことがあります。大まかな傾向は変わっていないのでお話ししましょう。当時はアレルギー性結膜炎が最も多く34%に見られ、次いで多かったのが白内障で25%、角膜表面の細かい傷が12%、網膜剥離も11%に見つかりました。角膜が薄くなり、中心部が突出して視力の低下や乱視をもたらす円錐角膜は1%のみでした」
白内障はカメラのレンズにあたる目の水晶体が白く濁り、視力が低下する病気。光をまぶしく感じたり、物が二重に見えたりする。やがて視力が低下し失明することもある。多くは加齢が原因で60代以上の発症が多い。
「ところが、アトピー性皮膚炎に伴う白内障の年齢分布は14~43歳に広がっていて、その平均年齢は23歳。男女差はなく、男性では31%、女性では18%がすでに白内障を持っていました。アトピー性皮膚炎患者の当時の白内障有病率は国内外の文献でも10~37%。そのうち両眼に水晶体の混濁があるものが75%。アトピー性白内障は両眼に出やすい特徴があります」
■10代、20代での発症も
またアトピー性白内障は後嚢下白内障が多いことが知られている。
「ひと口に白内障といっても水晶体のどこが濁るかにより種類が分かれます。水晶体の中央の『核』から濁りが出てくる核白内障、核の周りの皮質から濁りが生じる皮質白内障、それに水晶体の後ろの嚢部分が濁る後嚢下白内障です。加齢による白内障は核や皮質が濁るのが一般的で、強度近視では核が濁ります。それとは違って、アトピー性白内障は後嚢にも多く見られます」
アトピー性白内障手術では術後の水晶体嚢収縮も強いため、場合によっては正しい場所に入れた眼内レンズが、その後ずれることがある。
網膜剥離はどうか?
「アトピー性皮膚炎の患者のなんと11%が持っていました。男性では16%、女性では5%であり、年齢分布は14~30歳でその平均は21歳でした。これは国内の複数の文献でも0~8%。この比率は、網膜剥離の自覚症状がない患者さんを対象としたものですから、一般市民における網膜剥離の日本人の発症率『1年間で1万人に1人』という比率と比べれば、大変に高い頻度です」
このとき清澤院長が診た症例は両眼とも網膜剥離が目立ったという。
「うち77%は白内障も患っていました。眼底のよく見えない白内障患者では、白内障手術を行う際に、網膜剥離が眼底に隠れていないことをよく見極めなければなりません」
それにしても、なぜ、アトピー性皮膚炎になると目の病気のリスクが高まるのか?
「実は顔の皮膚も、目の角膜外層・水晶体・網膜も、発生の時期には外胚葉から分化します。つまり、同じ組織から発生するわけで、皮膚も目も起源は同じなため、アトピー性皮膚炎の原因でもある炎症の悪影響を共通して受けやすいということが一つの理由として考えられます。また、アトピー性皮膚炎の患者さんは顔面がかゆいので眼球の周りを叩いたり、かいたりする。そのため外傷性剥離が多いのではないか、との説もあります」
アレルギー性結膜炎の人の中には激しいかゆみに対処するためにステロイド点眼薬を使う人も少なくない。これが緑内障を招くことがある。
「緑内障は視神経に障害が起こり、視野が狭くなり、放っておくと失明することもある病気です。眼圧が高い人がなりやすいといわれます。人によってはステロイド点眼薬を2週間くらい使うと眼圧が急上昇し、視神経に損傷を与えることがわかっています。ステロイド点眼薬を使う人は定期的に眼圧を測り、注意しなければなりません」
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