クスリと正しく付き合う

「医療用麻薬」は適正に使えば依存は生じない

「やめられない薬」には、「治療上やめられない薬」と「患者の希望でやめられない薬」があります。継続の必要性が全くないにもかかわらず、患者の継続希望が強い薬の中には、いわゆる「依存性薬物」もあります。依存性薬物は慎重に開始し、効果を見極め、必要なくなった場合には、できる限り早急に中止すべきです。

 薬物依存には、「精神的依存」と「身体的依存」があります。「やめたくない」という思いから使い続けるのが前者、「やめることによって生じる症状(退薬症状)がツラくて、また使ってしまう」というのが後者です。覚醒剤は両方の依存が強く生じる違法薬物ですので、絶対に使ってはいけません。

 医療用麻薬(オピオイド性鎮痛薬)も、依存が生じることが知られています。

 しかし、「いつも依存が生じるわけではない」ということを知っておいていただきたいのです。同じ麻薬でも、適正な患者が使うのであれば依存は生じないのです。

 医療用麻薬は、がんの痛みや他の鎮痛薬が効かない慢性痛に用いられますが、がんの骨転移痛のような激しく痛みがある状態で使用しても、依存は形成されないということが証明されています。

 がん患者の中には、依存でやめられなくなるとか、麻薬で頭がおかしくなると思い込み、使用に抵抗がある方もたくさんいらっしゃいます。しかし、これらは医療用麻薬に対する誤ったイメージで、がんの痛みのような極度に痛みがある状態では使用しても全く問題ありません。イメージに惑わされず、安心して使っていただきたいと思います。

 逆に「痛くない状態」(もしくは痛みはあるが器質的変化に起因しない状態)で医療用麻薬を使うと依存が生じます。使用してはいけません。

「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン」では、オピオイド(麻薬)使用の最小化と見極めが規定されています。

 麻薬の依存は、まさに「不必要な使用」=「乱用」の結果といえるのです。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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