皮膚を科学する

ビジネスシーンでも応用可 皮膚感覚と感情の密接な関係

 人は恐怖を感じると、無意識に手や頬をさすって心を落ち着かせることがある。皮膚と心にどんな関係があるのか。

「皮膚は“露出した脳”である」という表現をする桜美林大学リベラルアーツ学群の山口創教授(人間科学)が言う。

「日常生活において、人は何事も理性を働かせて判断していると思いがちですが、とんでもない誤解です。皮膚感覚は脳に想像以上の膨大な量の情報を送り込んでいます。そのため私たちの感情は無意識のレベルで皮膚感覚に左右されているのです」

 実際に国内外の心理学の実験によって、皮膚感覚が感情に影響を与えていることが分かる事例が数多く報告されている。体が温まるとほっこりした気分になるのも、気のせいではない。有名なのは、米国の2人の行動経済学者が行ったコーヒーを使った実験だ。

「彼らは、実験参加者を実験室に連れていくエレベーター内で、参加者にホットコーヒー、もしくはアイスコーヒーを持ってほしいと依頼しました。そして実験室に入った後、参加者に架空の人物の特徴が書かれたリストを読ませて、その人物の印象について評価してもらいました。すると、ホットとアイスを持った人では、評価が大きく分かれたのです」

 結果は、ホットコーヒーを持った人は、その人物の印象を「親切」「寛容」と評価。さらに実験の謝礼として「友人へのギフト」と「自分のための品」のどちらかを選んでもらうように依頼すると、手を温めた人の多くが「友人へのギフト」を選択。その後の実験でも、皮膚を温めた人は人への信頼感が増し、対人距離が短くなることも分かったという。

「これらはきちんと説明がつきます。脳の島皮質と線条体という部分は体の温かさを感じると興奮しますが、同時に心理的な温かさにも興奮するので温かい気持ちを持ちやすくなるのです。また、脳の扁桃体はネガティブな感情に反応し、体が冷やされたときにも反応してしまいます」

 他にも米国の心理学者の実験では、触り心地のいいものを触ると、人は無意識のうちに人に優しくなったり、協調的になったりする結果が出ている。つまり、皮膚から得られる刺激と似た心の状態がつくり出されるのだ。これはビジネスシーンにも応用できるという。

「交渉を成功させたいときや相手の態度を柔軟化させたいときは、『温かい』飲み物を手に持たせ、『やわらかい』椅子に座ってもらうといいかもしれません」

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